〜地下迷宮レストラン〜 賄い編

〜地下迷宮レストラン〜 賄い編



ソラは、ここの夜の賄いが大好きだった。


特に日替わりの、大皿に6種類のキッシュ、マリネ、バターの効いたマッシュ・ド・スイートコーン、それとパンの実のセットは、本当にソラにとって、フェバリットの詰め合わせのような一品だった。


そんな賄いを目の前にして、思わず、香りを楽しみ、瞑想をしているみたいにうっとりしているソラは、同僚のランチェスターの食べ方を見ると、気持ち良いのを通り越して、腹立たしく思うこともある。

今日も、そんな感じだ。


「よく、こんなに美味しいディナーを一瞬でムシャムシャ食べられますね!」

ソラは、皿を口の前に45℃に上げて、ごちゃまぜに流し終えて、皿をテーブルに置いた、ランチェスターに言った。


ランチェスターは、ふた咬みしたあと、

「俺、すぐ食って寝るのが日課なんすっ!」


ランチェスターは、コップの水を飲むと、テーブルに置いてあるナプキンで口を拭いた。


「ひとつひとつの食材の味を楽しんだりしないんですか?」

ソラは不満そうだ。


「俺、食べることにあんまり、興味がなくって。」


ランチェスターは、ソラを見て答えた。


「生まれてから、好きな食べ物がなくて、みんなから変わってるってよく言われるんすよ。」


ソラは、思い付いたように、

「多分、あなたの味覚がまだ目覚めていないだけだと思います。このままでも、楽しいと思いますけど、イリアの実を食べると、舌が目覚めると思います。」

と言って、ソラは自分の手さげから、小さな袋に入った実を取り出した。


「もしよかったら、これ、イリアの実です」

ソラは、5ミリくらいの薄い紫色の実をテーブルナプキンの上に載せて、ランチェスターのランチ皿の横にすべらせるように置いた。

「これ、うまいっすか?」


「この小さな実には、すべての栄養素が入っていて、滋養強壮と、感覚を呼び覚ます力があるんです。わたしの実家で、1年に一度取れるから、あげます。」


「そうっすか。それじゃ頂きます!」

ランチェスターは、5粒ともいっぺんに口に入れて、ポリポリ食べ始めた。


「これは、味がないけど、薬みたいなもんすね。」 

ランチェスターは、実を飲み干した。


ソラは、

「そしたら、これを食べてみてください。ヴィラの実のキャンディーです。」

ソラは、手さげの中の、

橙色のキャンディーを、ランチェスターに手渡した。


ランチェスターは、

「これ、ヴィラの実の飴っすか?あんまり食べないんすよ、俺。」


「試しに食べてみてください。」

とソラ。


「うん?な、なに、これ。これ、ヴィラの実の?」


「そう、これがヴィラの実の味です。」

ソラは笑顔で言った。


「こんなに、うまいなんて!マジすか!?」

ランチェスターは味を噛み締めて、言った。


ランチェスターは、急に自分の着ているユニフォームから、ステーキの匂いが染み付いて、すごく臭うのに気づいた。

「肉臭い!え、こんな臭いユニフォーム来てたんすか?」


「すべての感覚が目覚めるから、多分、嗅覚も、だと思います。」

ソラは、ユニフォームを伸ばして、鼻まで持っていき、驚いているランチェスターに言った。


「臭っ!よくソラさん、俺といて、平気だったすね!?臭っ!」


ソラは大笑いした。



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