遊んでください先輩!

うまチャン

第1話 騒がしい女子高生

 山の上の高等学校と書いて『山上さんじょう高等学校』。

ここはその名の通り、山の上にある小さな高校だ。

3クラスありながら一学年20人くらいしかいないこの学校で、俺は今日も学校で淡々と授業を受ける。


「気をつけ〜。さようなら〜」


「「「「「さようなら〜」」」」」


 俺の名前は船木ふなき しょう

自然が大好きな高校2年生、どうぞよろしく。

俺が通うこの高校は、いつも定員割れをしている。

ということは……受験でうまくいかなかった人たちが来るということ。

まあ、それは見た目なだけで、本当は頭の良い人だって多少はいる。

だって定期テストで毎回、しかも全教科90点以上のやつもいるんだぜ?

そう、意外と頭良いんだよ。


「この後部活かよ……。まじだりぃ〜」


「俺休みだもんな〜」


「お前今日休みかよ!? ずるいぞ! 俺と変われ!」


「絶対いやだね! じゃあ部活頑張ってな!」


「はっ? おまッ!」


 ――――あれがいわゆる陽キャってやつか。

俺は別に一人でも良い。

確かに友達は大事だし毎日が楽しい学校生活を送れると思うけど、あそこまでは騒ぎたいわけじゃない。

どっちかと言うと俺は静かに過ごしたい。

でも、周りにはそんなに静かなのは絶対に無理そうな人ばかり。

だから、自然と一人になるんだよな。

まあ、苦ではないからまだ良いけど。


「――――」


 いやぁ……天気が良いなぁ〜。

さっきの自己紹介でも言ったけど、俺は自然が超大好き。

だからこうやって窓辺から見える青い空と雲を眺めながら、ぼーっとする……。

なんて天国なんだろうかっ!

 今日は並雲があちこちにあって……おっ、上には筋雲があるな。

今日も面白い空だな!

 こうやって一人の時間を部活が始まるギリギリまで眺めれば、今日も頑張れ――――


「あっははははははは!!!! なにそれ面白すぎ! あっはははははははは!!!」


 ――――まただ……

また上から騒がしい声が聞こえてきた……。 

今年の4月から新入生が入ってきて、上の階はかつてないくらい騒がしい。

と言っても、今年入ってきた1年生は比較的大人しいほうだ。

 今年は静かな学年だから、部活で話しかけられそうな後輩が出来そうだな! って思ってたんだけど……。


「先輩こんにちはああ!」


「――――」


 この荒々しいドアの開け方と、バカでかい声で挨拶してくる女子の声が聞こえたら間違いなくあいつしかいない。

はあ、今日もこいつの隣で部活をしないといけないのか……。


「せんぱ〜い? 聞いてますか〜? 聞いてなかったらいたずらしちゃいますよ?」


 よし、無視無視。

ここで振り向いたらろくにならないことに巻き込まれる予感しかしないからな。

寝てるふりしとけば、こいつも諦めて先に部活に行ってくれるだろう。


「先輩? もしかして寝てる? うーん……あっそうだ!」


 ん?

何か悪い企みを考えたのか……?

横から俺の前まで移動してくる足音が、俺の耳に入ってくる。


「――――先輩」


「――――!?」


 背中がゾワッとした。

超至近距離で囁く声が聞こえ、思わず顔を上げてしまった。

すると、俺の眼の前に後輩の顔が映り込んだ。


「うわっ!?」


「うへへ! 先輩やっと起きてくれましたね! どうですか? りこのガチ恋囁きボイスですよ。これで先輩も、りこにガチ惚れですね!」


「んなわけあるか。お前を好きになるなんて一生ありえん」


「んな! ひ、酷いですよ先輩……。りこってそんなに魅力ないですか?」


「――――ない」


「酷いです!」


「痛っ! 全力で叩くな!」


 ったく、毎日この調子だ。

本当に勘弁してほしい……。

 あー、こいつの紹介もしておこうか。

この騒がしい女子高生の名前は西城さいじょう 莉子りこ

俺の一個年下の1年生だ。

 確かに見た目は美少女、美少女なんだけど……。

制服のスカートはギャルみたいに、パンツ見えるか見えないかどっちなんだ!?って言うほど短くはしてないし――――むしろ見た目は清楚感満載、ただの女子高生にしか見えない。

だが、見た目で判断してはいけない。


「先輩早くいきましょうよ!」


「俺は時間ギリギリに行く主義なんでね。だからもうちょっと静かな時を……」


「ふーん、頭の悪いりこには意味がさっぱり分からないのでさっさと行きましょう?」


「いやいや、部活前のリラックスタイムは必要だろ。だから俺はこうして外の景色みながら癒やされてるのさ……」


「――――じゃあ行きましょう!」


「おまっ! 俺の話聞いてたか!?」


「はい! 全くちゃんと聞いて、ちゃんと聞いていませんでした!」


「お前のほうが意味分からん!」


 はあ……。

そう、莉子はいつもこんな感じで騒がしいやつだ。

だから、いつも一人で静かな時間を過ごしたい俺にとっては厄介な存在だ。

学校が終わった瞬間に俺がいる教室に来ては、俺を無理やり部室に連れて行こうとする。

 そして、実は莉子は学校でも問題視されているほど、超問題児の一人として有名だ。

どうやらこの山上高校には超問題児が2人いるらしく、その中の1人が彼女だ。

もう一人は莉子と同じ1年生の女子高生で、名前は確か……小野 まあやだったっけな?

どうやら莉子の親友らしいけど、実際に会ったことないからよく知らない。

まあ、どうせ大変なことになるだろうから会いたくもないけど。


「早くぅせんぱぁい〜」


「だあああ!分かったから早く行くぞ!」


「やったぁ! 先輩優しい!」


「お前がうざいから仕方なくだ!」


 もう諦めて先に行ったほうが良いと判断した俺は、仕方なく部活に行く準備をした。

椅子から立ち上がる俺をずっと見てくる莉子は、何故か楽しそうな顔をしていた。

そんなに楽しみなのか?

まあ、莉子にとっては楽しみなのかもしれないけど、俺は楽しみでもない。

だからと言ってめっちゃ行きたくなあぁあい! っていうわけでもない。


「さってと、じゃあ行こうか莉子」


「はい先輩! 今日もよろしくお願いします!」


「だるいから今日は放任することにするか」


「酷い! 酷いですよ先輩! クズ! ゴミ! カス!」


「おまっ、先輩に向かってクズゴミカスだとー!?」


「ベー! 先輩なんか糞食らえです!」


「なんだとぉ!」


 こうして俺が莉子を追いかける、これもほぼ日常的だ。

日常と言っても、一番厄介な日常でしかないけど……。

 この超問題児女子高生、西城 莉子が俺が所属する部活に所属してから約2ヶ月、もうすぐ7月を迎えようとしている。

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