第9話(1)皆の様子

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「現在、医療ルームで十名とも治療中です……幸いにして、重傷者はおりません」


 深海が夜塚と三丸に告げる。


「軽傷者のみか……」


 三丸が安心した様子を見せる。


「北陸三県の中では最も医療体制が充実している富山だったのも、不幸中の幸いかな?」


 夜塚は顎をさする。


「話はまだ出来ないか?」


「もう少しかかるかと……」


「そうか……それにしても、イレギュラーが三種融合するとはな……」


 三丸が腕を組む。


「ええ、驚きました……」


 深海が頷く。


「ただ、想定外ってほどではないよ……」


 夜塚が頬杖を突きながら呟く。


「なんだと?」


「だってそうでしょ? 二種ずつ融合するなら、三種融合だって無い話ではない」


「まあ、それはそうだが……」


 夜塚の言葉に三丸が頷く。


「三種が同時間帯、同じような場所に現れたことが想定外では?」


「まあ、それはね……まさしく『イレギュラー』な事態だ」


 深海の問いに夜塚が苦笑する。


「今後、こういったケースが頻発する恐れがありますね」


「恐れではなく、そうなるものだと確信しておいた方が良いよ」


 深海の発言を夜塚が訂正する。


「そうだな……しかし、危険度Sが多く出現するのか……」


 三丸が眉をひそめる。


「そういえば一子さんには報告がちゃんと行っているかな?」


「それはもちろん、水仙さんも既に分析を進めているそうです」


「……」


「? 何か気になることが?」


 急に黙る夜塚に深海が尋ねる。夜塚は首を左右に振る。


「いいや、なんでもない……まあ、当面、ボクらの取り組むべき問題は……」


 夜塚が視線を部屋の外に向ける。


「……ああ、そうだな」


 夜塚の言わんとしていることを三丸が察する。


「……宙山隊員、調子はどうですか?」


「深海隊長……問題ありません」


「記録映像を見返してみて気付いたのですが、イレギュラーの攻撃の瞬間、魔法で防御壁のようなものを張りましたね?」


「ええ、反応するのがわずかに遅れてしまいましたが……」


「そのお陰で比較的軽傷で済んだのですね」


「……すみません」


「? 何を謝ることがあるのですか?」


「もっと広い防御壁を展開すべきでした……それなら皆を守れたのに……」


 雪が唇を噛む。


「魔力のストックも尽きかけていたでしょう。無理はよくありません。たとえ最悪に近い展開でも、貴女一人だけ残れば状況を挽回することは出来ますから。気に病むことはないです」


「はい……」


「佐々美隊員、いかかですか?」


 深海は雪の隣のベッドにいる葉に声をかける。


「なんとか大丈夫です」


「貴女も比較的ですが、軽傷で済みましたね」


「運が良かったのです」


「それも日頃の行いの賜物でしょう」


「ふっ……」


 深海の言葉に葉が思わず笑みをこぼす。深海がさらに隣のベッドに視線を移す。


「雷電隊員は……」


「全開です!」


 天空が笑顔で握り拳をつくる。


「宇田川花隊員、どうだ?」


 三丸がベッドに座る花に声をかける。


「なんとか……咄嗟に遮蔽物に身を隠したのが幸いしました」


「優れた状況判断だな」


「ありがとうございます」


 花が頭を下げる。三丸はその隣のベッドにいる竜に視線を向ける。


「宇田川竜隊員も軽傷で済んだようだな」


「いや……」


 竜が申し訳なさそうに後頭部を抑える。


「どうした?」


「あのイレギュラーが融合した瞬間、ぼくは身を隠すことを考えてしまいました……」


「賢明な判断だ」


「え?」


「貴様に期待しているのは支援的な働きだ。その為にまずは自らの無事を優先する判断は決して間違っていない」


「は、はい……」


「志波田隊員は……平気そうだな」


「ははっ、少しは心配してくれても良いんですよ? ただ、体は丈夫に出来ていますので」


 蘭が力こぶを作ってみせる。


「氷刃隊員……」


「い、いや、ぜ、全然! だいじょばないです……!」


「まだ何も聞いていないが……うん、元気そうだな」


「え、ええ? 今のうんはなんですか……?」


 涙を溜める陸人の目を見て、三丸が頷く。陸人は困惑する。


「古前田隊員、調子はどうだい?」


「綺麗な看護師さんが側に付き添ってくれれば、すぐにでも回復するんですけどね……」


 夜塚の問いに慶が答える。


「軽口が叩けるなら安心だね……星野隊員はどうかな?」


「奇跡的にですが、今回は受け身が綺麗に決まりました……」


 月は信じられないといった様子で呟く。


「今までの落下は無駄ではなかったということだよ」


「! あははっ!」


 夜塚の言葉に月が笑う。夜塚は大海のベッドに歩み寄る。


「疾風隊員……」


「夜塚隊長……」


 大海は厳しい表情を夜塚に向ける。


「怒っている?」


「そういう顔つきなのです……と言いたいところですが、そうですね、怒っています。自らの不甲斐なさに……!」


「ふむ……」


「私はもっと強くならなければならない……! 夜塚隊長、訓練をお願いします!」


「とりあえず、今はゆっくり休んでいて」


「はい!」


 夜塚が医療ルームを出る。深海と三丸が廊下に立っていた。


「夜塚隊長……富山隊や福井隊の様子も確認されていましたが……」


「……どうだ?」


「……安心したよ、彼らの目は死んでいない。ボクらはまだ戦える……!」


 夜塚が力強く頷く。

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