第4話(2)互いに自己紹介

「来ましたね……」


「やっほー、破竹♪」


「名前で呼ぶのはやめてください、夜塚隊長……」


 深海が嫌そうな顔をする。


「え~なんでよ?」


「任務ですよ……」


「訓練でしょ?」


「それでも任務だということには変わりません。それに……」


「それに?」


 夜塚が首を傾げる。


「隊員たちの手前もあります……」


「あ~要は恥ずかしいんだ?」


 夜塚が笑う。深海が呆れたような視線を向ける。


「あのねえ……」


「違うの?」


「繰り返しになりますが、任務です……緊張感が削がれます」


「変に肩肘張っていたら、出来る任務も出来ないよ」


「物事にはケジメというものがあります」


「え~この服装は良いの?」


 夜塚が深海の着ている白衣の裾を掴んで引っ張る。


「これが落ち着くのです……」


「そんなのアリ?」


「アリです。きちんと申請済みですし……離して下さい……!」


 深海が夜塚の手を振り払う。夜塚が唇を尖らす。


「なんだよ、ツレないな~」


「あの……」


「ん? なんだい、疾風隊員?」


「しょ、詳細な説明が欲しいのですが……」


「説明?」


「え、ええ……」


「夜塚隊長……まさか話していなかったのですか?」


「うん、サプライズ演出の一環で♪」


 夜塚が拳を頭に添えて、ウインクしながら舌を出す。


「北陸で一番腹の立つテヘペロですね……」


「北陸限定⁉ そこは嘘でも世界一とか言ってよ!」


 深海の言葉に夜塚が戸惑う。


「調子に乗るから嫌です」


「そんな~」


「あの……」


「ああ、疾風隊員、紹介しよう。こちらが深海破竹隊長だ」


「どうも……」


「はっ!」


 大海が深海に向かって敬礼する。


「それと……」


「互いに自己紹介してもらいましょう。子供じゃないんですから……」


「それもそうだね」


「それでは、雷電隊員から……」


 深海が促す。


「雷電天空です。よろしく~♪」


「軽そうな奴だな……」


「夜塚隊長と気が合いそうですね……」


 天空の様子を見て、慶と月が囁き合う。


「宙山雪です。よろしくお願いします!」


「真面目そうだ、好みだぜ……」


「はい?」


「冗談だよ」


 月に軽く睨まれて、慶が首をすくめる。


「佐々美葉です! よろしくお願いします!」


「……」


「より真面目そうですが?」


「いや、あいつはいい……」


「?」


 慶の反応に月が首を捻る。


「それじゃあ、こちらもボクは夜塚だよ、よろしく~」


「梅太郎……」


 深海がぼそっと呟く。


「な、名前は覚えなくても良いから! ご、ごほん、それじゃあ……」


 夜塚が大海らに促す。


「疾風大海です! どうぞよろしくお願いします!」


「真面目そうだね~」


「真面目そうじゃなくて間違いなく真面目よ、顔を見るだけでも分かるわ」


 雪が天空に答える。


「星野月です。よろしくお願いします」


「~♪」


「!」


 月を見て小さく口笛を鳴らした天空の靴を雪が踏む。


「痛でっ⁉ なにすんのさ⁉」


「不真面目……!」


「古前田慶です……よろしく……」


「やる気はなさそうですが、体格からは実力が感じられますね……」


「ふん、あんなものは見せかけだけだ……」


 雪の呟きに葉が反応する。


「? 佐々美隊員、ご存知なのですか?」


「いいや、あんな不良坊主のことなどは全然知らん……」


「不良って、知っているじゃないですか……」


「さて、互いの自己紹介も終わったところで、訓練に入ろうか」


「よ、夜塚隊長?」


「なんだい、疾風隊員。まだ疑問が?」


「こ、こちらの方々は?」


「富山の第四部隊だよ」


「富山の……?」


「ああそう、君らと同じ部隊だ」


「お、同じ部隊⁉」


「これから仲良くするように」


「ちょ、ちょっと待って下さい!」


「え~ひょっとして仲良く出来ない感じ?」


「そ、そういうわけではありませんが、同じ部隊というのはどういうことでしょう?」


「言葉通りだよ。君たち第四部隊は、通常は富山、石川、福井のそれぞれで活動するが、時には県境を越えて共同任務にあたってもらうことになる」


「「「ええっ⁉」」」


 大海たちが驚く。深海が呆れる。


「それも説明していなかったのですか……」


「よりサプライズ感を演出しようと思ってさ♪ !」


「立山連峰にゲートの反応あり!」


 通信が入る。深海が尋ねる。


「……これも演出ですか?」


「いや、これは不測の事態ってやつだ……まあちょうどいい、第四部隊、出動だ!」


 夜塚が指示を出す。

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