第1話(4)疾風の如き剣速、そして……

「ぽわっ……」


「はあっ!」


 大海が綿毛に斬りかかる。大きな綿毛の塊が半分になる。月が声を上げる。


「やった!」


「いや、オイラの二の舞だ!」


「えっ⁉」


「古前田隊員の言う通り……このままなら塊が増えるだけだね……」


 古前田の言葉に夜塚が頷く。


「そんな……」


「さあ、どうする?」


「はああっ!」


「⁉」


 大海が目にも止まらぬ速さで刀を振るい、綿毛の塊を細かく切り刻んでみせる。


「は、速い!」


「ふむ……まさに疾風の如き剣速だ……」


 驚く古前田の横で夜塚が感心する。


「どうです!」


 大海が刀を鞘に納める。綿毛はバラバラになって、地面にハラハラと落ちる。


「凄いよ、大海!」


「へっ、やるじゃねえか……」


 月と古前田が大海を称賛する。


「もったいないお言葉です……」


 大海も二人に向かって頭を軽く下げる。夜塚が口を開く。


「水を差すようだけど……」


「え?」


「気を抜くのはまだ早いよ」


「!」


 大海が振り向くと、地面に落ちた綿毛から花が生える。月と古前田が驚く。


「こ、これは……」


「むっ⁉」


 花が集まり巨大な花となる。大海が唖然とする。


「な、なんと……」


「避けるんだ、危ない!」


 夜塚が声を上げる。


「ぽわっ!」


「うおっ⁉」


「きゃあ⁉」


「どわっ⁉」


 花が飛ばした花びらが鋭い刃と化し、大海たちを襲う。それを回避しようと大海たちは横っ飛びして、倒れ込む。夜塚が声をかける。


「大丈夫かい⁉」


「な、なんとか……」


「か、間一髪、服が破れただけです……」


「隊長の声が無ければ危なかったぜ……」


「とりあえずは無事なようだね……」


 夜塚がほっと胸をなで下ろす。大海が問う。


「あいつは……花の妖魔ということですか?」


「こういうケースは珍しいからね……ちょっと待ってて、もしもし、指令部?」


 夜塚が通信を繋ぐ。


「……はい」


「状況は把握していますよね?」


「モニタリングしておりますので……」


「奴の危険度は?」


 夜塚が巨大な花に向かって顎をしゃくる。


「こちらとしても珍しいケースですので、現在データ照会中です……該当データがあった場合、そちらと照らし合わせて、危険度を改めて算出します」


「急いでね」


「……出ました」


「早いね」


「緊急を要しますので」


「いいね、頼もしい」


 夜塚が笑みを浮かべる。


「危険度は……Aです」


「! ほう、一気に跳ね上がったねえ……どうも」


 夜塚が通信を切る。


「隊長、ここは私に! 私の詰めの甘さが招いた事態ですので!」


「いや、すべてはボクの油断だ……」


「隊長!」


「落ち着いて」


「……!」


 夜塚は大海の眼前に手を広げて、大海を落ち着かせる。夜塚は再び笑みを浮かべる。


「良い子だ」


「隊長……」


「ここはボクに任せてもらうよ……」


 夜塚が前にゆっくりと進み出る。


「ぽわあっ!」


 花が葉を長く伸ばす。古前田と月が声を上げる。


「あ、あれで包み込む気だ!」


「隊長! 危ない!」


「ふん!」


「ぽわっ⁉」


 夜塚が手を掲げると、周囲に巨大な木が何本も生える。すると、葉の伸びは止まるどころか、花自体が萎れてしまう。古前田が口を開く。


「水生木……木は水によって養われる。翻って木は水が無いと枯れてしまう……」


「……どういうこと?」


「木を生やして、花の水分を強引に吸い取ったのです!」


 首を傾げる月の横で大海が声を上げる。夜塚が大海を指差す。


「そういうこと♪」


「ぽ、ぽわあ……」


「大きな花の太い茎……まるで木のようだね。ならば、これだ!」


 夜塚は巨大な斧を出現させ、それを手に取る。大海が驚く。


「あんな巨大な斧を軽々と!」


「驚くのはまだ早いよ! それっ!」


「ぽわあああん!」


 斧によって切断された花は霧消する。古前田が呟く。


「金剋木……金属製の斧は木を切り倒すか……」


「その通り……」


「五行の力を全て使いこなすのが、夜塚梅太郎の強さの秘密か……」


「五行にピンと来るとは、なかなか物知りだね……さて、片付いた……指令部?」


「確認しました。事後処理はお任せ下さい」


「任せたよ♪」


「……」


「あれ? みんなどうしたんだい?」


「結局隊長にお任せしてしまいました……」


「まあまあ、三人ともよくやったよ、後は経験を積めばもっと良くなるさ」


「そうですか?」


「ああ、ボクの見立ては間違っていなかったよ……さあ、帰投しようか」


 夜塚が笑顔で三人に声をかける。

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