4話 変死体事件

★地球からきた少女

 宇宙人行き交う商業施設、ワープラザでレオンは巡回していた。騒がしい少年少女の宇宙人にすれ違うときは、早く帰路につくようにやんわりと注意していく。声をかけられた少年たちは、一瞬むっとした表情をすると、


「地球人の警察だなんて頼りないな。弱そうだぜ」


 レオンの顔を見るなり少年たちは、ケラケラと笑ってその場を立ち去った。態度はあまり感心できないが、素直に従ういい子たちだ。レオンは彼らの無邪気さに苦笑しながら、残されたゴミを回収した。


 ワープラザ周辺の星には、学園惑星と呼ばれる学問の星がある。そこにはあらゆる専門分野の学校が集結しており、そこの学生たちが学校終わりの遊び場としてワープラザに集まることが日常であった。その中には遅くまでワープラザに居着く者がいる。レオンはそんな学生たちを補導するのも仕事だった。


 レオンが施設の端にたどり着いたとき、チカチカと故障した電気の下でたむろしている人影を見つけた。その影は、何かを囲むように立っている。不振に思ったレオンは声をかけた。


「そんなところで何をしているんだ?」


 レオンの声にたむろしていた者たちは一斉に肩をびくっとさせた。顔がレオンに向けられる。老けた顔だらけだ。スーツを着ている者もおり、どうやら通勤帰りの大人のようだ。しかし、なぜこんなところで大人が隠れるように集まっているのか不可解だった。レオンは近づこうとした。


「こんばんは、お巡りさん」


 一人の宇宙人が、引きつった笑顔でレオンに挨拶をした。しかし、視線が泳いでいる。大きな目玉でそれがよくわかった。


「の、飲み会の相談ですよ。怪しいことはありません。ははは」


 別の宇宙人が囲んでいる中央を隠すように前に出てきた。怪しいとレオンは思った。この者たちは、何かを隠している。


 その時だった。


「あー! お兄さんじゃん」


 隠そうとしている宇宙人の背後から、少女が顔を出した。宇宙人たちは慌てて少女を隠そうとしたが、彼女は気にせず彼らを押しのけ、レオンの側まで来ると腕を遠慮なしに掴んだ。


「そそその子を介抱していただけだ! やましいことは考えていない!」


 少女を囲んでいた大人たちは捨て台詞のようにそれだけ言うと、その場を走り去っていった。


 レオンと少女だけがその場に残された。


「お兄さんだって?」


 レオンは腕に顔をこすりつけてくる少女に戸惑った。レオンに兄弟はいない。この少女とは初対面だ。記憶が混乱しているのでないかと心配になる。


「俺は君のお兄さんではないよ」


「あら、お兄さんよ。だってほら、顔のつくりが同じでしょう?」


 彼女は上目遣いで自分を指さした。厚く切りそろえられた前髪に、カールした黒髪。ボリュームのあるロングドレスのような服。大昔の地球の一部で流行ったと言われているゴシック服だろうか。腕も覆い尽くす手袋までしている。ラメで飾られた黒いマスクで口元が隠されているが、その顔は地球人だった。


「地球以外で会えるなんて感激しちゃう。この広い宇宙ではあなたはお兄さんよ」


「俺もこんなところで地球人に会えるとは驚きだよ。はい、感動の出会いはおしまい。質問に答えてくれ」


 レオンは少女に腕を離すように言った。少女は「えー」と不満の声をあげたが、渋々と手を離した。


「それで、なんでこんな遅くまでここに? 友達と遊んでいたわけではなさそうだ。あの大人たちは? 何もされてない?」


「うーん、何もされてないというより、何もできなかったかな」


「え? どういうことだ」


 彼女の目は笑っていた。マスクの中でふふっと息を漏らすと、体をくねらせながらレオンに近づき、首筋をあおるように指先でなでた。


「わたし、あの人たちと遊ぶ予定だったの。でもお兄さんに邪魔されちゃった。……ねえ、代わりに遊んでくれる?」


 少女は絡みつくようにレオンに抱きついた。彼女の目はギラギラと獲物を見るようにレオを見つめていた。レオンは悲しい気持ちになっていた。少女の見た目は10代前半くらいだ。そんな子が年上の不特定多数の男と遊ぼうとしていたなんて。この少女の外した道を正さねばと責任感を感じていた。


「遊ばない。俺は同じ地球人の君にあえて嬉しかったんだ。でも、せっかく地球からでてきたのに、自分の身を傷つけるようなことをしていると聞いてとても悲しいんだ」


「えー、わたしちっとも傷ついていないよ」


「俺が傷ついている。きっと君の親御さんも傷つくよ」


「パパ? それなら大丈夫。パパは大賛成だもん。応援してくれてるし」


「…………」


 少女からの衝撃な言葉にレオンは絶句した。この少女の問題行動は家庭環境にありそうだと思った。まさか命令されているのか。パパというのも本当に親かどうかも怪しい。レオンは彼女を保護しようと考えていた。



 ピピッピピッ



 少女側からアラーム音が聞こえてきた。その音を聞いた少女は顔をパッと輝かせると、


「あ、パパが迎えにきたみたい。バイバイお兄さん。今度遊びましょう」


「あ、ちょっと待ちなさい!」


 レオンが引き留めるまもなく少女は投げキッスをしながら走り去って行った。

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