★逃げも隠れもしないケロ

 よくわからない生物の対応を命令されたレオンは慌てふためいた。帰ろうとするガン警部補を引き留め、なぜ自分なのかと聞いた。


「待ってください。もしかして、このカエルの件は俺ひとりで対応するのですか?」


「カエル? 何だ、レオン。あの生物の正体を知っているのか。やはりお前に適任だ。任せた」


 ガン警部補は、カエルの件には耳を貸したくないようだ。早々に話を切り上げると、出入り口で邪魔になっているレオンの肩を軽くどかした。ガン警部補に力を入れた意識はないのだろう。しかし、その手はレオンの体をいとも簡単に移動させ、よろけさせるほどの力だった。体のバランスを崩したレオンは、倒れまいと片足で踏ん張った。


「うわっ。あ、待ってください。ガン警部補、話は終わっていません!」


 レオンがよろけている間に、ガン警部補はすたこらとその場を逃げ出していた。レオンが追いかけようと廊下に出ると、ガン警部補は走り去り、背中を向けたままレオンに呼びかけた。


「俺は本部に呼ばれているんだ。後は自分で考えろ!」


 そう言い捨てると、限定エリアに逃げるように入っていった。固く閉じられてしまった扉を叩きながら、レオンは不満をぶつけた。


「カエルの計画も居場所もわからないのにどうしろと」


 カエルが何も教えてくれなかったのは、ガン警部補の電話対応が悪かったせいでもある。カエルは怒って何も伝えずに電話を切ってしまった。ここにいても何も解決しない。まずは電話の発信場所の特定から始めようと、レオンは自分のオフィスにとぼとぼと帰った。


 多くの犯罪者は、自分の居場所をごまかすために履歴の削除、詐称を行う。または迷路のように回りくどい手順を使う者もいる。しかし、レオンには考えがあった。オフィスに戻ってきたレオンは、ミウに話しかけた。


「ミウさん、会議で繋いだ電話のデータを送ってくれませんか?」


「いいわよ。ほかに何か手伝えることはあるかしら」


「今は大丈夫です。ありがとう」


 レオンはお礼を言うと、受け取ったデータを展開した。電話番号、契約会社、契約者名に住所。さらに電話したときの座標が目の前に広がった。


「契約者名が『次世代の宇宙の支配者』? ふざけた名前だ」


 レオンは目の前の情報を信用していなかった。彼の経験上、犯罪に手を染める者は、素直な記録を残すことはない。これらの情報もでたらめだろうと冷めた目で見ていた。隣で様子を見ていたミウも同じ考えだった。レオンの開示した情報をのぞき込みながら、座標データに指を差した。


「あら、バグマ衛星から発信されていることになっている。マグマと溶岩しかない星よ。これは噓の情報かもね」


「まあ、想定内のことだよ。ほしい情報は電話の電波の形状データだけだし。後は宇宙に漂う電波探して、軌道修正しながら見つけ出すだけさ」


 解析した電波情報を宇宙空間に飛ぶ電波を探し出す。レオンは見つけた電波からその速度と方角を計算し起点となった場所を割り出す作業に取りかかった。残されたデータより、生きたデータのほうが今の時代は信用できるのだ。電波が飛ばされた位置が特定できた。


「よし、わかった。ここは……バグマ衛星!?」


 電話に残された座標とレオンが割り出した座標が一致したことにレオンは驚いた。いたずら電話をする子どもでも座標をずらす知識はある。しかし、カエルは犯行予告をしておきながら、自分の居場所を隠すようなごまかしをしていないのだ。レオンはカエルの言葉を思い出した。「僕のところに来い」そう言っていた。


「本当にバグマ衛星にいるのか?」


 カエルは逃げも隠れもせずに待っているのだろうか。しかし、過酷な環境の衛星に身を置いているとすれば、カエルは生き抜くためのハイテクな建物や機械を持っていることになる。恐ろしい計画。それが何を意味するのか、早く突き止めなければならない気持ちに駆られ、レオンはじっとしていられなかった。


「ミウさん、ありがとう。俺行くよ!」


「ええ、気をつけてね。」


 レオンはミウに見送られながら、駆け足でオフィスを出た。その足取りのまま駐車エリアに向かい、自分の宇宙船車に乗り込んだ。レオンは焦っていた。ガン警部補に注意された害宙のことを忘れるくらいに。レオンが座標の数字を打ち込むと、宇宙船車は地面から浮かび上がり始めた。

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