★再会

 騒ぎを起こして店を逃げ出した後、人気のないところに移動して様子をうかがった。道行く宇宙人は騒ぎを気にせずに買い物を楽しんでいる。レオンは自分がお尋ね者になっていることを知り、この星に長居するのは危険だと判断した。


「銀河姫、俺もお尋ね者になったみたいだ。この星から出よう」


「そうね……」


 銀河姫は壁の角から名残惜しそうに店を眺めながら、小さな声で返事した。彼女はどこか寂しそうで落ち込んでいる。


「宇宙の果てに行きたくない理由はまだ話せない?」


 レオンの問いかけに銀河姫は一瞬戸惑った。


「……話すわ。これ以上あなたに迷惑はかけられないし」


 銀河姫はレオンに向き合うと、小さく深呼吸した。かぶり物の中でも息を吸う音が聞こえてくる。


「銀河の果てに行く前に、もっと世界のことを知りたかっただけなの。ただそれだけ」


 頭はうつむいており、かぶり物の中の銀河姫はレオンから目を逸らしているように感じだ。理由はそれだけではない気がしたが、レオンはそれ以上追求しなかった。


「……君がそう言うなら信じるよ。とにかく行こう」


 レオンは銀河姫の手を取った。


 なるべく人気の多い場所で紛れ込みながら駐車場に向かった。レオンを探している連中がどこかにいるのではないかとヒヤヒヤしながら進んで行く。レオンに手を引っ張られながら、銀河姫が尋ねた。


「ねえ、どうして私のわがままに付き合ってくれるの?」


「え?」


「私のせいであなたも危険な目に遭っている。さっさと引き渡そうとか思わないの?」


 銀河姫の質問にレオンは顎に手を当てて考えた。すぐに笑顔で答えた。


「宇宙の平和は、人々の幸せに始まり、人々の幸せに終わる」


「え? どういうこと?」


 レオンの答えに銀河姫は聞き返した。


「父の口癖だよ。父も宇宙警察だったんだ。目の前の幸せを守れなくては宇宙を守れない。今の君をほったらかしにしたら、父に怒られるし、僕も父の意見には賛成なんだ」


「素敵なお父さんね」と銀河姫はレオンの隣に並んだ。

 彼女はレオンの手を握り返した。重かった足取りが軽くなる。彼女はレオンに勇気づけられた気持ちで頷いた。




 駐車場まで見つかることなくたどり着いた。レオンたちは宇宙船車を駐めた場所に向かった。しかし、自分の宇宙船車に不審な人影が見える。レオンは銀河姫を離れた場所に待機させると、腰の銃を手に取り恐る恐る近づいた。宇宙船車のトランクを開けて誰かが作業している。薄汚れた作業着に大げさなガスマスク……


「お前、シャドウ!?」


 驚きの余りレオンは口に出してしまった。すぐに自分の口を手で塞ぐと、シャドウの元に駆け寄った。


「シャドウ、人の宇宙船車に何しているんだ。盗む気か?」


 シャドウはレオンに気が付くと作業を止め、気さくに挨拶をした。


「よお、久しぶりだな。カビ星人は元気?」


「ああ、娘さんの治療も進んでいるよ……って違う、俺の質問に答えろ」


 レオンはシャドウの首の襟を掴んだ。窃盗容疑もあるシャドウだ。レオンの愛車を盗もうとしているなら許せなかった。


「おいおい、乱暴だな。お前に預けた物を回収しに来ただけだよ」


 シャドウは両手を挙げてため息をついた。ガスマスクから漏れた息がでる。シャドウから預かっていた物? レオンはチラリと銀河姫の方を向いた。花星人のかぶり物を回収しにきたのだろうか。それはまずい。今は彼女の正体を隠すのに使っている。シャドウに銀河姫の存在がばれるのも困る。レオンはいいわけを探した。


「ああ、アレね。ちょうどクリーニングに出していてここにはないんだ。今度持っていくよ」


「クリーニング? 何を言っているんだ」


 シャドウは呆れていた。レオンは自分が何かまずいことを言ったのかと心配になる。


「花星人のかぶり物をとりにきたんでしょ?」


「ああ、それも渡したままだったな。違う、これを取りに来たんだよ」


 シャドウはトランクに向き直るとアンダーカバーを開けた。核融合装置が現れる。シャドウはそれのカバーを器用に取り外した。

 核融合装置の中にはドーナツ状の真空容器が入っているはずだ。しかしそれは見当たらず、代わりに別の物が入っていた。赤く輝く鉱石があったのだ。他の装置も弄られている。


「それは、フエルソン鉱石?」


 シャドウと会ったきっかけの鉱石だ。レオンはなぜ、自分の宇宙船車に入っているのかわからなかった。その答えをシャドウは得意そうにしゃべった。


「ほら、カビ星人に車体ぶつけられて破損しただろ? 私が修理したんだぞ! そのとき装置がダメになっていたからな、代わりのエネルギーにフエルソン鉱石を代用したんだ」


 シャドウは真新しい核融合装置をレオンに見せた。


「少し時間がかかるが、これと入れ替えるから待っていてくれ」


 作業の邪魔だと言うようにレオンをどかした。レオンは勝手に自分の愛車を弄られていたことに驚いたが、それどころではない。はやくこの惑星から出たいのに、足止めされるとは。レオンは焦った。


「おい、今からここを出発する必要があるんだ。もたもたできない。はやくどいてくれ」


 レオンはシャドウの腕を掴み、その場からどかそうと引っ張った。レオンの行動にシャドウは迷惑そうに腕を振り回した。レオンの手を引き剥がすと、デバイスを取り出し、ホログラムを映しだす。


「そういえばお前、お尋ね者リストにのっていたな」


 シャドウはゆっくりと立ち上がった。

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