★指名手配犯との出会い

 レオンは周囲から自分を監視する鋭い視線を感じた。レオンの宇宙船車を見張る宇宙人も、お手製の武器を抱えて睨んでいる。レオンはため息をついた。銃を使っても、この人数を一人で対応するのは無理だ。応援も望めない。要請しても「一人でなんとかしろ」の一言だろう。


 レオンはまず聞き込みから始めようと決めた。そしてもう一度フィッシュラの元に向かった。彼は壊れた機械のガラクタを集めて、何かを作っているようだった。レオンは背後から声をかける。


「フィッシュラさん。フエルソン鉱石を盗んだ犯人を捜します。そのために情報をください」


 レオンはデバイスを取り出すと、情報を打ち込んでいった。


「まずは墜落した宇宙船の型番と所有者はわかりますか?」

「ウーベルティス社の輸送船、UTS-16だ。」

「盗まれた時間帯は?」

「昨日の夜さ」

「怪しい者を近くで見ませんでしたか?」

「怪しい者? 怪しい者はそこら中にいるだろうよ。この星にいる全員さ」


 フィッシュラはガハハと笑って作業の邪魔だというようにレオンを追い出した。たいした情報ももらえず、とぼとぼとその場から離れた。この星に監視カメラなどない。普通の星であれば、情報を元にAIがいくつか候補を探してくれる。このままでは永遠にこの星から出られない。レオンは早く手がかりを見つけなければと焦った。


 他の宇宙人に聞き込みしても同じ結果だった。そして役立たずとなじられる。レオンは街の奥まで進んだ。そこは廃材置き場であらゆる宇宙船やコンテナが積まれていた。何か手がかりがないかと探し回っていたとき、コンテナの一つから明かりが漏れていた。誰かいるのかとのぞき込むと、そこにはフードを被った全身作業着の人物がいた。その人物は何かの機械を弄っている。この人にも聞き込みをしようとレオンは声をかけた。


「作業中のところを失礼します。宇宙警察の者です。少しお話をいいですか?」


 レオンの声にその人物は振り向いた。顔はガスマスクで覆われて見えない。手にも手袋をしている。その姿からどこの星人か推測することはできなかった。しかし、レオンにはどこかで見たことがあるような気がしたのだ。こっそりとその人物を照合する。レオンが作業台に目をやると、赤く輝く鉱石が置かれていた。レオンはそれを指さした。


「すみません。その鉱石はなんでしょうか?」


 怪しい人物は鉱石を嬉しそうに掴むと説明する。


「お、お目が高いね! これはフエルソン鉱石さ。従来の核融合エネルギーを鉱石化したものさ。次世代のエネルギーだよ」


 フエルソン鉱石。その言葉を聞いてレオンは銃を構えた。照合も終わり、怪しい人物の正体を暴いた。


「そのフエルソン鉱石が昨夜盗まれたんだ。お前、指名手配犯のシャドウだな! 俺とこい!」


 シャドウと思わしき人物は手に鉱石をもったまま手を上げる。そしてこう言った。


「私が盗んだ? おいおい、間違えないでくれ。この鉱石は元々私のものだ。取り返しただけだよ。むしろ私は被害者だよ」

「元々はお前のもの? ふざけるな」

「本当だよ。信じてくれよ」


 シャドウに懇願されても、レオンは意味がわからなかった。フィッシュラから盗まれたと依頼されてきたが、シャドウは盗まれた自分の物と主張している。どちらが正しいのか。どちらも怪しくて判断が下せない。


 銃を構えたままレオンが硬直していると、シャドウは上げていた手を後ろの壁に伸ばして、壁のレバーを引いた。油断したと思った瞬間、コンテナの壁が開いて、シャドウは走って逃げてしまった。レオンは逃がすものかと追いかけていった。


「待て! 止まれ!」


 レオンは銃のダイヤルを物体停止に切り替えた。当たれば対象の時間が一分間止まる。引き金を引く。シャドウに向かって光線を放った。しかし、その光線は服に当たって反射したのだ。崩れかけた廃材に当たり、空中で静止した。


「な!?」


 光線が跳ね返されたことに驚いた。宇宙最高技術の銃が効かないとは。ならば自力で捕まえるしかない。レオンは靴の加速装置を発動させた。


「奴だ! 奴が犯人だ!」


 レオンは星の住民に向かって大声を出す。少しでも協力者がほしかった。狙い通りに彼らは集まり、シャドウの進行方向に立ち塞がった。その隙を突いてレオンはシャドウの体に飛びかかる。その体はがっちりとしており、飛びかかったレオンにもびくともしなかった。フィッシュラを始め星の住人が武器を持ってシャドウににじり寄った。


「よお、そこのマスク人よ。盗った物を返してもらおうか」

「あ! あの姿見たことあるぞ! 指名手配犯じゃないか!」

「懸賞金100万フォトンだって!? こりゃあいい! 宇宙コーヒー10万杯飲めるぞ!」


 思わぬ収穫に彼らは喜んだ。


「おい、地球人。もういいぞ。俺らはこいつを捕まえて金をもらう。フエルソン鉱石も見つけたしな。お疲れさん」

「そんな」


 せっかく指名手配犯を捕まえたのに、自分の手柄にできないのは嫌だ。レオンは強気で命令する。


「こいつは俺が連行する。フエルソン鉱石も証拠品だ。こちらで預かる」


 その言葉にフィッシュラは怒り、武器を振り上げる。


「なんだと! 雑魚地球人が生意気なことを言うな! そいつは俺たちのものだ!」


 レオンとシャドウは囲まれた。レオンは銃に手をかけた。この人数を突破できる自信はないがやるしかななかった。

 その時、急に視界が真っ白になる。閃光弾だ! チカチカする視界のなか、レオンはシャドウを逃がすまいと体にしがみついた。シャドウが激しく動いているのか体が上下左右にガクガクと揺れる。視界が戻ったときには、シャドウはレオンを体につけたまま街の入り口付近を走っていた。


「逃げろ~、逃げろ~」


 シャドウは愉快な声を出しながら、レオンの飛行船車に向かって走っていた。


「おい! 逃げたぞ! 追え!」


 後ろからはフィッシュラたちが武器で攻撃しながら追ってくる。レオンの横で地面が爆発した。

 レオンの宇宙船車の周りには、ガラクタと武器を持った見張りが待ち構えている。それに向かってシャドウは何かを放り投げた。円盤形の機械が宇宙船車の近くに落ちる。そこから竜巻が発生し、宇宙船車以外を吹き飛ばした。シャドウはレオンの右手を体から引っぺがすと、車体に手を当てた。レオンの手がスキャンされると起動音とともにキャノピーが開く。


『おかえりなさい。レオン様。どこに行きますか?』


 シャドウはコックピットに乗り込むと慣れた手つきで操作を始めた。片足でレオンを蹴り続け、コックピットから追い出そうとする。


「よし、これで動く。じゃあな」

「これは俺の車だ! 誰が渡すか!」


 レオンは追い出されまいと、シャドウの足にしがみついた。そんな攻防をしていると、車体に爆発物がぶつけられる。フィッシュラたちがすぐそこまで来ていた。


「逃がすな! 逃がすな!」


 砲弾が一斉に射出された。これに当たればひとたまりも無いだろう。


「ああ、もう、仕方にないな」


 シャドウはそういうとレオンを中に入れ、キャノピーを閉めると急上昇した。

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