第17話

『ウドゥン皇太子殿下、私はとうに覚悟しておりました。

 否やはございません。謝られることでもございません。

 皇太子殿下となられた日から、この日が来ることはわかっていたように思います。白い結婚を貫いたのは結果として、好都合となりましたね。

 貴方は独身となりました。私との結婚は存在しなかったことになりました。そのことに文句などはありません。政治的に意味のない婚姻だったのですから。ただひとつだけ、言わせてください。

 各国の王女や皇女、名家の娘の肖像画をずらりと並べて、どの娘がいいと思うか、などと訊ねてこられるのは少々意地悪ではないでしょうか。

 私のことを憎んでおられるのですね。でも認めていただいてもよろしいではないですか。私は自ら自分の首を絞めたのです。貴方のために。

 恥も外聞もなく、ソヴァ殿下との秘め事のことを裁判で明らかにしました。ソヴァ殿下にとって不利になる証言もしました。貴方が有利になるような嘘もつきました。引き返せない道を進みました。ソヴァ殿下よりもウドゥン殿下のほうが、世継ぎに相応しいと信じたからです。

 今ごろになってソヴァ殿下の共犯者としてふたたび囚われることになろうとは。思い及ばなかったのは、うぬぼれのせいでしょう。私はウドゥン殿下に愛されているのだと、調子にのっておりました。

「何もしていないのに、なぜ異母兄に疎まれているのか、理解できない」とおっしゃっていましたが、今でも同じ思いでいらっしゃいますか。それこそ嘘でございましょう。

 ソヴァ殿下は愚かな間違いを犯しましたが、ここに至って、ようやく私はソヴァ殿下のご心情を理解できました。ソヴァ殿下は出来のいいウドゥン殿下に嫉妬していらしたのでしょう。

 平民の母を持つ異母弟を見下して蔑むことは簡単でしたが、その理不尽さにも気づいておられた。だからいつか貴方が仕返しに来るのではないかと妄想を抱いてしまったのです。 無理からぬことだと思います。貴方の善良さがますますソヴァ殿下を狂わせたのではないでしょうか。もちろん、咎めているわけではございません。誤解などなさいませんよう。

 ソヴァ殿下は、いえ、私も同じです、ずっとうしろめたい気持ちを抱えていたのです。

 ソヴァ殿下は今やっと平穏にお暮らしになれたのかもしれません。できましたら私も監獄島に流刑にしてください。罪人のソーキより』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る