第3話 プロローグ その3 出会いは突然に

「ねぇ、さっきから食べてばっかりだけど、話とかしないの?」


黙々と一人で料理を食べていたところに、突然、美人の女性が話しかけてきた。


「自分は人数足りないからって、無理やり駆り出されたからなぁ。

正直、こういう合コンって慣れていないし、どう接したらいいかわからないんだ。

だから会費分だけ食べて帰るつもりだ。」


冬馬はさも面倒くさそうに、下を向きながら返事をした。




「折角の機会なんだからさぁ、ちょっと話してみない?

私も無理やり連れてこられたけど、誘ってくれた人は今日来ていないし、

知り合いもいないから、退屈していたんだぁ。」


「それなら自分じゃなくても他の人に話しかけたら?

自分は話下手だし、貴方は美人だから、

もっとイケメンを誘ってもいいんじゃない?」


「さっきもそういう人に声かけられたけど、

如何にも下心丸出しで気分悪くしちゃった。それも連続で。

でもあなたならそういう事もなさそうだし、

ねぇ、いいでしょ?」


「でも自分と話してもつまらないと思うけど、それでいいなら…。」

「やった♡。お話しましょ。ねぇ、乾杯しよ♡」



やたらと馴れ馴れしい感じの女性は、近くのテーブルからピッチャーを持ってきて、並々と生ビールをグラスに注いだ。



「私たちの出会いに乾杯♡」


ひょんな事から、夏子との語り合いが始まったのであった。




「まずは自己紹介ね。名前教えて。」

「自分は北野冬馬。会社で総務の仕事をしている。

見ての通り、イケメンでも何でもない地味な人間だ。」


「自己紹介でそんな否定的な事言わないの。

私は南田夏子。今のところ、無職のすねかじりね。」


「自分だって否定的な事言ってるでしょ。お互い様だね。」


「むぅ、あなたに合わせたの。ニートしているけど、

これでも家事全般は得意なの。」


そう言いながら、夏子はグラス満杯のビールを一気に流し込んだ。




「おいおい、一気に飲み過ぎだよ。ペース考えた方がいいぞ。」


「大丈夫、大丈夫、夏子さんはちょっとやそっとじゃ酔いつぶれません♡」


「そういう事言っている人が一番危ないんだよ。

それで倒れている人を何人も見ている。ペース配分考えようよ。」


冬馬は、今まで飲み会の席で酔い潰れた人の補助を何度となくしてきたから、

夏子を本気で心配していた。





「ありがと。普通は酔い潰してお持ち帰りするものなのに、誠実なのね。」


「貴方はろくでなしとばっかり付き合ってきたのか?普通はそんな事考えないぞ。」


「夏子でいいわよ。その代わりあなたの事は冬馬くんって呼ぶから。」


「どう見ても自分の方が年上だろ?慣れ慣れしくないか?」


「だって、冬馬くんって堅物の弟みたいなイメージだもん。ダメ?」


「ダメって言われてもなぁ…。」


「じゃあ決まりね♡もっと飲も?冬馬くん♡」




そう言いながら夏子は冬馬のグラスにビールを注いだ。

年下に舐められているはずなのに、冬馬には嫌な気分は感じられなかった。


それどころか、会話するのが億劫で嫌なはずなのに、

夏子との会話は楽しく感じられた。


冬馬は女性との会話には慣れていないし、

会話となったらしどろもどろになってしまう。


でも夏子との会話は普通に出来ている。きっと夏子の人柄だろうなと冬馬は感じた。


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