実はベイベリーな彼

桜の一夜

第1話

「それなら付き合ってくれ。」

通勤ラッシュの人混みの中、私を安心させるために連れ出してくれたあなた。あまりにも非現実すぎてなんて言ったか処理できない。

「え、…えーと。」



今は電車で通っていた。相変わらずの通勤ラッシュに参りながら揺られていると、お尻に何かが触れる。最初はたまたま触れただけだと思ったが、何度も触れて掴まれた。

「!」

怖い。耳元でハァハァとした息が聞こえる。これって痴漢!?でも確信もないしこんなブスな私なんてされるか…?涙が溢れそうになった時、

「おい。」

お尻にあった手が離れる。

「な、なんだよ!」

振り返るといつも同じ電車にいる同じ学校の制服のイケメン君だった。

「お前、…通報されたくなかったら離れろ。そして二度とこの子に近づくな。」

「ひ、ひぃ!」

鋭い目つきで男の人を見ると逃げていった。

「あ、あの、ありがとうござい、「こっち来て。」」

引っ張られると電車から降りらされる。

「ごめんな。結構辛かっただろうし過呼吸気味だから降りた。まだ学校間に合うよな?隣のクラスの成瀬だよな?」

先程とは変わり、優しく明るい表情でペラペラ話し始める。この人はどういう性格の人だ?っていうか隣のクラス?

「あれ?成瀬だよな?」

「あ、はい!成瀬です!」

確かに同じ学校の制服だとは思ってたけど、隣のクラスの人か!どうりで見たことあると思った!でも私は数人の友達以外、同級生の事は覚えてなかったからそんな私の事知ってくれたなんてなんだか申し訳ない。

「なあ!少し落ち着くためにも話さないか?」

引っ張られて椅子にポンポンと座るように促される。まだ時間あるし、少しぐらいならいいかな。私は大人しく座る。

「まずは、俺の名前から!俺は日比谷 透。成瀬の下の名前は澪だよな?」

「は、はい。成瀬 澪です。」

「よかった!それで澪は普段、休憩のとき何を読んでるの?」

この人はこんな初対面のまともに話したことの無い子にも優しいんだ。



その後少し話して落ち着いたから電車を待っていると、

「澪。この前髪上げたら?こっちの方が絶対可愛いのに。」

苦手な髪に触られて前髪なしで初めて間近でイケメンを見て驚いて下がる。

「あ、わりい。嫌だったか?」

少し悲しそうにしていて罪悪感が湧く。

「あ、いえ。すみません。

…でも、私、髪をあげる勇気がなくて。この通り、人が苦手で。」

「そうか。悪かった。」

ニコッと最初と変わらぬ笑みで諦めてくれた。その後、電車に乗って学校の最寄り駅に着いた。

「この辺から俺、友達と会うけど一緒に居て大丈夫か?人が苦手だろ?」

「あ、そうなんですね。分かりました。

では、助けていただきありがとうございました!あの、何かお礼とかって、」

こんなに気を使えて話上手な日比谷さんはモテるんだろうな。でももう二度と話さないだろうからお礼しなきゃ。

「それなら付き合ってくれ。」

まさかの内容にオロオロしてしまった。

「え、…えーと。

あの、」



「おはよう!澪!」

「…おはよう。」

いつも集まってるメンバーの所へ向かう。

「あれ?澪、元気ない?」

「うん。色々あってね。あれ?陽菜もお疲れ?」

「うん。陽菜ね、徹夜ゲームをしてたら親にバレて取り上げられたってさ。」

「わあー。それはご愁傷さま。」

「本当だよ!聞いてくれる!?」



「澪。今日何があったの?私には話してくれるよね?」

席に着くと後ろの席の1番仲のいい西野 茜に声をかけられる。

「うん。大声出さないでね?

…日比谷さんに告白された。」

「!?」

言った通り声は出さなかったけど相当驚いている。 だよね。

「日比谷って、あの隣のクラスの超人気者の日比谷 透!?」

人気者なんだ。まあ初対面の私とあんなに話せるなんて人馴れしてるよね。

「え、で、澪はなんて答えたの?!」

「私はね、」



「え、…えーと。

あの、ごめんなさい。私、あなたの事よく知らないし。」

「それなら友達からはどう?それで、また俺の事知ってもらってから告白するよ。」

「は、はい。友達なら。」

「本当?やった!」

先程とは違う心の底からの嬉しそうな笑みに胸がドキッと鳴る。

「じゃあよろしく!それと友達なら敬語はなしで!」

「は、…、

わかった。私、先に行くね。これからよろしく。」



「って感じかな。」

「へえー。確かに日比谷君、澪の事見てるなと思ってたけど好きなんだ!

…まあでもあんなに必死だったら当たり前かな。」

最後は聞こえてなかった。

え?!日比谷さん見てたの?知らなかった。でもどこをみて好きになったんだろう。

「それに、澪、可愛いしね!まあ、また前みたいな事にならないなら考えてみてもいいんじゃない?」

一瞬トラウマが蘇るが気をそらす。

「…そうだね。」



「澪!ご飯食べよう!」

「うん!」

茜に誘われて席を立とうとした時。

「澪って居る?」

急にザワザワし始める。声の主を見ると日比谷さんだ!しかも私の事呼んだ?!

「澪って?」

「成瀬さんの事だよね?」

「でもなんで?」

私は慌てて日比谷さんの所へ行く。

「澪、一緒にご飯食べないか?」

「い、行く!今すぐ行こう!」

私は今すぐ教室から離れたくて手を引っ張って歩き始める。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る