いつか必ず逢える、その時まで

ゆりえる

第1話 アクエリーシア星のツインレイ

 黄昏色の空が、さざ波の表面に歪みを作りながら反射している。

 水面間近で速度を落としたカモメ達が、もの寂し気な声で飛び交う。

 それが、水瓶座球状星団のアクエリーシア星でも、遥か昔から変わらぬ姿だったかのように。


 穏やかな潮風が、ルウリーシアの絹のように滑らかで光沢の有る金髪を軽く揺らし、自然が奏でる音と同化するような彼女の歌声を遠くまで運ぶ。

 ルウリーシアの声は、小鳥達の鳴き声とも共鳴し合い、周囲一帯に美しいハーモニーを響かせている。

 彼女の声の届く範囲内に繁る植物達は、他の場所と比べ成長が早く、美しい花々を次々に開花させ、動物達は苦難など陥る事無く繁殖し続けていた。


 ルウリーシアの聞き慣れた歌声と、近付いた時に、柔らかい金髪が自分の頬にあたる感触を心地良く思えているのは、彼女に瓜二つの顔を持つ、ライリーシア。

 ルウリーシア同様、翡翠のように澄んだ緑色の瞳を輝かせているが、彼女より若干ダークがかった短い金髪、適度に筋肉の付いた長身で、周囲から見間違えられる事はなかった。


 2人は男女の双子という間柄だが、彼らの住む、アクエリーシア星では、兄妹や姉弟という括りはない。

 彼らは『ツインレイ』と呼ばれる、一つの魂から分かれた唯一無二のパートナー同士。

 彼らに限らず、アクエリーシア星では、誰もが自分のパートナーである『ツインレイ』と、一緒に生活していた。

『ツインレイ』同士は、同じ日に生まれ、亡くなるタイミングもほぼ同時という事が多い。

 

 生まれ変わっても、魂は不滅なように、その同じ魂が根源となる彼らも何度転生を繰り返し、別の姿で生を受けた後、このアクエリーシア星においては、必ず『ツインレイ』の間柄として出逢う宿命になっていた。

『ツインレイ』同士は、伴侶となる以外の選択肢は存在せず、それに対し、誰も疑問すら感じないまま過ごしていた。

 

 ルウリーシアとライリーシアも、それまでは当然の如く『ツインレイ』としてあるべき転生をアクエリーシア星で何度も重ねていたのだが……


「これからは、本物のこんな景色が見られるのね!」


 二人の目の前に広がる大海原は、ただのイリュージョンだった。

 色んな星々の美しい景色が、ランダムに天空から地面までの大型スクリーンに映し出され、それは映像のみならず、香りや風などで、嗅覚や触覚も似せて演出されていた。


 今、展開されている、地球仕様の夕焼け色に染まった海の光景も、それらのレパートリーの1つ。 

 他のどれよりもその光景を気に入っているルウリーシアにとって、5.5万光年離れて位置する地球は、かねてからの憧れの惑星。

 これから始まる地球へのフロンティア活動が、待ち切れないほど、期待に胸を膨らませていた。


『地球か……』


 心は既に地球へとまっしぐらに向けられているルウリーシアと違い、望むものは自由自在のアクエリーシア星に、このまま留まる事こそが本望のライリーシア。


 そんなライリーシアの内なる声を聞き取って、ふくれっ面になるルウリーシア。


「テレパシーを使わないで! ライの声を聴いておきたいの!」

『今は、ライの生の声を聴いていたい。この先ずっと、耳に残しておいて、忘れないくらいに……』


 アクエリーシア星人達は、テレパシーで意思疎通をするのが常だった。

 二人ももちろん、これまではそうして互いの心を即座に感じ取り、ライリーシアのようにテレパシー使用が通常モードとしていたが、これから二人が向かおうとしている地球は、発声する事が主流となる星。

 ボランティア隊として宇宙船に乗船する前に、極力、発声や音声会話に慣らしておくよう、隊の指導者から指示が有った。


「そう言ってるルウ自身が、堂々とテレパシー使っているのって、どういう事かな?」


 しぶしぶ発声しつつ、ルウリーシアが使い分けている心の声の方に、疑問をぶつけたライリーシア。

 二人は気心の知れたツインレイ同士ではあるが、時折、仲違いしないまでも、軽度の口論となる事はあった。


「ごめんね、ライ。私、声を出して歌う事には慣れているけど、話す事にはまだ、慣れていないの! 長い間、テレパシーの方が馴染んでいたから。でも地球に行ったら、発声するのが普通だから、練習しておかないと!」


「発声って、面倒だね。地球人はどうして、テレパシー使わないんだろう?」


 心で伝え合う事が主流のアクエリーシア星人達は、発声する機会が皆無に等しい。

 一度も発声する事無く、次の転生へと移るペアも少なからずいた。


「出来る人と出来ない人がいるみたいよ。といっても、出来るのは、私達より先に、フロンティア活動を行っている、他の星からの一部の有志達に、限られているのだけど。だから、地球人との意思疎通には、発声が欠かせないの」

『長文だと、息継ぎが難しい。テレパシーなら、こんな事に煩わされないのに……』


 地球へのフロンティア活動に志願する意思表示をしたのは、ルウリーシアからで、ライリーシアよりも既に沢山の情報を得ていた。

 それを望むなら、瞬時にライリーシアの脳へと情報を転送する事も出来たが、地球行きに関し、不満が残る彼の気持ちを察し、それは行わずにいた。

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