第3話(1)豪邸へ

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「まあ、こうして心ちゃんから直々にお招き頂いたわけだけど……」


「ふむ……」


「どうしたの?」


 凛が輝に問う。


「い、いや……」 


「はは~ん……」


 凛が笑みを浮かべる。


「な、なんだ……?」


「輝っち、ビビっている?」


「ビ、ビビってなどいない!」


「ダメだよ~これから共に戦う仲間なんだから、そんなに吞まれちゃったら……」


「の、吞まれてなどいない! い、いや、その前に仲間って!」


「えっと地図ならもう着いているはずなんだけどな~」


「無視するな!」


 輝を無視して、端末を手に凛がうろつく。


「なんだろう、この高い壁がずっと続いているな……」


「ちゃんと住所を聞いたのか?」


「聞いたよ、もちろん」


「本当か?」


「そこで嘘はつかないでしょ」


「じゃあなんだ、この壁は……」


 輝は壁をポンポンと叩く。


「う~ん、ここを登るとか?」


「そんな訳ないだろう」


「壊すとか?」


「ダメだ!」


「あ~分かった、飛んで超えるとか?」


「どうやってだ⁉」


「いや、変身すればイケるんじゃない?」


「! 確かに身体能力のある程度の上昇は肌で実感していたが……」


 輝が顎に手を当てる。凛がコントローラーを取り出す。


「よし、やってみよう!」


「待て! 迂回しようという発想は無いのか⁉」


 輝が凛を制止する。


「だって……迂回しようにもこの壁、ずっと続いているんだよ」


 凛が自らの端末に表示された地図を見せる。輝が頷く。


「む、確かに……」


「でしょ~?」


「こんな高く分厚い壁に囲まれて……どんな建物なんだ?」


「監獄とか……?」


「それなら壁の上に有刺鉄線を張り巡らさんとあきまへんな~」


 歩いている凛と輝に車道から声がかかる。凛は停車したリムジンに目をやる。


「! あ、心ちゃん!」


「こんにちは~凛はん、輝はん」


 リムジンの窓を開け、心が挨拶してくる。


「な、なんという車体の長いリムジン……漫画でしか見ないものだと思っていたが……」


 輝がやや驚きながらリムジンの車体を見つめる。


「遅いので迎えにきましたで~」


「ご、ごめんなさい……」


「……申し訳ない」


 凛と輝が頭を下げる。心が右手を左右に振る。


「いやいや、そんなん気にしいひんで……さあ、車に乗って」


 リムジンのドアが開く。凛たちは戸惑いながら乗り込む。


「お、お邪魔しま~す……」


「失礼……」


「それでは参りまひょか」


「心ちゃんの家、ここから遠いの?」


「いいえ、近いどす。すぐそこどす」


「え? それらしい建物が見当たらないけど……」


 凛が周囲を見回す。


「……これどす」


 心が壁を指差す。


「……え?」


「この壁の内側が我が家どす」


「ええっ⁉」


「監獄へようこそ♪」


 驚く凛たちに対し、心が笑顔を向ける。


「まさかこんな広大な土地一帯がお屋敷だとは……」


「か、輝っち、ビビってる?」


「お前はビビってないのか?」


「ぜ、全然ビビってないよ?」


「……本当か?」


「アタシをビビらせたら大したもんだよ」


 凛の脚がぶるぶると震えている。輝が指摘する。


「……脚、思いっきり震えているぞ」


「こ、これはあれだよ、貧乏ゆすり」


「嘘つけ、余計みじめだろう⁉」


「嘘です、ビビっています……」


「まったく……」


「着きました」


 リムジンが止まり、心が降りる。凛たちもそれに続く。


「……立派な門からも数分は走ったぞ……どれだけ広いんだ」


「狩りのしがいがあるね、輝っち!」


「変なことを言うな!」


「狩り?」


 心が首を傾げる。


「あ……『モンスターキラー』、『モンキラ』の新作の話だよ、ね?」


「あ、ああ、そうだ……」


「それならすぐに用意出来ますが……」


「ええ?」


「親交を深めるのに一狩りするのもなかなか乙なもんどすが、その前にご招待したいところがありますので……」


「招待?」


「ええ、こちらどす……」


 心に促され、凛たちは心に続く。


「り、立派なお家……廊下で生活出来そうなくらいだよ」


「頼むからそれはやめてくれ」


 凛に輝が軽くツッコミを入れる。心が笑う。


「ふふっ……着きました」


「! こ、ここは……!」


 広い中庭にお茶会の準備がなされていた。心が振り返って笑いかける。


「アフタヌーンティーを楽しみましょう♪」


「……お茶どころか、お風呂まで頂いてしまった……」


 廊下を歩きながら、頬を上気させた輝が呟く。凛がまわりを見回す。


「いや~すごいお家だね~」


「お前、さっきからそればっかりだな……」


「……ねえ」


「なんだ?」


「お前って言うの、そろそろやめない?」


「む……」


「一晩をともにしたし、裸の付き合いもしたわけだしさ」


「誤解を招く言い回しはやめろ……」


「とにかくさ……」


「う、うむ……」


「アタシのことはリンリン、心ちゃんのことはココロンって呼んでいいからさ」


「だ、誰が呼ぶか! それに紫条院のことまでお前が勝手に決めるな!」


「え~それじゃあ、違う呼び名で呼んでみてよ~」


「うっ……り、凛……」


 輝が顔を赤らめながら呟く。


「おおっ! 呼び捨て!」


「う、うるさいな!」


「わたくしのことも名前で呼んで欲しいわ~」


「うおっ⁉ こ、心⁉」


 いきなり背後に現れた心に輝は驚く。心がいたずらっぽく笑う。


「ふふっ……」


「お、驚かすな……」


「ごめんなさい、さあ、お次は……」


「お次は?」


「パジャマパーティーと参りましょう♪」


「うわあい!」


 心と凛たちが広い寝室に入る。


「さあ、何をしますか? オーダーメイドの枕で枕投げ? それとも恋バナ?」


「そんな高級枕投げはごめんだ。それに出会って間もないのに恋バナが盛り上がるか……」


「え~」


「輝っち、ノリ悪い~」


 心と凛が揃ってプイっと唇を尖らせる。


「今後のことを相談するんじゃなかったのか?」


「輝はん、メンバー探しについては手を打ってあります」


「ほう、早いな……それでは……」


「というわけで、朝まで『モンキラ』しまひょ~」


「よっしゃ、一狩り行こうぜ!」


「いや、他にも話し合うべきことが……って、あ、朝まで⁉」


 輝の驚く声が広い屋敷に響く。


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