【第1章完】ゲツアサ!~インディーズ戦隊、メジャーへの道~

阿弥陀乃トンマージ

第1章

オープニング

                  オープニング


「あ~もう、こんな時間だ……きゃあ⁉ な、何っ⁉」


 自室のベッドから起きようとしたパジャマ姿の女性が何者かに引っ張られる。毛布の下から、ドクロの仮面を被り全身タイツを着た女性が現れ、パジャマ姿の女性に覆い被さる。


「は~はっはっは、私の名前は『スカルレディ』、姉ちゃんには我が組織に入ってもらうで!」


「い、嫌~‼」


「待ちなさい!」


「!」


 押し入れから水色のタイツと仮面に身を包んだ女性が現れ。声を上げる。


「EFシアン!」


 次に隣室のドアからオレンジ色のタイツと仮面に身を包んだ女性が入ってくる。


「EFオレンジ!」


 次に廊下から紫色のタイツと仮面に身を包んだ女性が出てくる。


「EFパープル!」


 次にクローゼットから茶色のタイツと仮面に身を包んだ女性が飛び出してくる。


「EFブラウン!」


 最後にベランダから灰色のタイツと仮面に身を包んだ女性が飛び込んでくる。


「EFグレー!」


 五人のタイツを着た女性たちが水色タイツを中心にして向かって右に茶色と灰色、左に紫色とオレンジがもたつきながらも並ぶ。水色タイツが再び声を上げる。


「五人揃って!」


 五人がそれぞれポーズを取り、ややバラバラに声を上げる。


「『遊戯戦隊エレクトロニックフォース!』」


「……さあ、今の内に早く逃げて!」


「は、はい、ありがとうございます……」


 水色タイツが声をかけると、パジャマ姿の女性が戸惑いながらも寝室を出る。


「……よしっ!」


 パジャマ姿の女性が寝室を出たことを確認すると、五人がスカルレディに向き直る。


「……アカンわ」


「え?」


 スカルレディの言葉に水色タイツの女性が戸惑う。


「貴女たち、自分でやっていておかしいと思わへん?」


「お、おかしいですか……?」


 五人がそれぞれ顔を見合わせる。スカルレディがため息をつく。


「はあ……色々あるけど、まず色のチョイスがおかしい!」


「ええっ⁉」


「そんなに驚くところちゃうやろ! 何よそれは、センターが水色って!」


「あ、これはシアンです」


「い、いや、シアンと言われてもね……お子様には分かりづらいでしょ」


「そうですか? 結構目に優しいと思うんですが……」


「そういう配慮はええかもしれへんけど、他の面々よ」


 ドクロレディが指し示す。シアンが周りを見回す。


「他?」


「オレンジはまだしも、紫色と茶色と灰色って……」


「オリジナリティを出そうかなと思って……」


 シアンが後頭部を抑える。


「オリジナリティにも程があるでしょ、その組み合わせ!」


「あ~いわゆるアクセント、アクセントです!」


「言い直しても一緒よ。アクセントばかり組み合わせても意味がないでしょ!」


「はあ……」


 ドクロレディが首元を抑える。


「えっとさ……やる気あるの?」


「あります、あります! みんな、あるよね!」


 シアンがオレンジに尋ねる。


「まあ、うん……」


「いまいち煮え切らない! ブラウン⁉」


「ぼちぼちかな~」


「微妙! グレー⁉」


「あるっちゃあるよ」


「ないっちゃないやつ! パープル!」


「……半々」


「半々⁉」


「ちょっとさ~全然意思統一出来てへんやないの~」


 ドクロレディがベッドに腰かける。


「ま、まあ、それは確かに……」


「大体さ、ポーズ取るまで並ぶのがグダグダやったし、掛け声のタイミングもバラバラやったよね? ちゃんと練習してんの?」


「昨日初めてしました!」


「き、昨日初めて? え、結成何年目なん?」


「何年目っていうか……おとついです」


「おとつい⁉」


 ドクロレディが驚いて立ち上がる。


「ええ……」


「そんなんじゃアカンよ!」


「そ、そうですか?」


「ええ、この『戦隊ヒーロー飽和時代』では勝ち残っていけへんわ!」


「でもインディーズ……マイナーからメジャーになりたいんです!」


「そういう子たちから頼まれて、私はこうして疑似悪役を、彼女は疑似民間人をやっているんやけど……彼女はこうしてお部屋まで貸してくれたしね……」


 ドクロレディが廊下の方を見る。パジャマ姿の女性が寝室を覗き込んで会釈する。


「はい、ネットで見かけて、お願いしたんですけど……」


「とにかく、色の選出がおかしいし、ポーズとかもバラバラ……何よりも問題なのが……」


「問題なのが?」


「活動時間帯が月曜日の朝ってなによ⁉」


「え?」


「普通こういうのは日曜日でしょ⁉ 『ニチアサ』って知らない⁉」


「ええ、存じ上げております……でも、それこそ飽和状態じゃないですか?」


「まあ、それはそうやけど……」


「だからアタシたちはちょっと違う方向で行こうかなと……『ゲツアサ』という言葉を定着させることが出来れば良いなと思って……」


「定着せえへんと思うわよ?」


「そ、そうですか? で、でも、どうしてもこの時間帯じゃなきゃ駄目なんです! 月曜日は一週間の始まり……皆さんに安心して日々を過ごして欲しいんです!」


「へえ……」


「……というのは建前でして……」


「は?」


「アタシは短大生、オレンジは……」


「わたしは専門学校生です」


「パープルは?」


「わたくしは大学生どす……」


「ブラウンは?」


「ウチはフリーターや」


「グレーは?」


「ボクは就職していますが、土日が基本忙しいので……」


「……というわけで全員の都合がつきやすいのが、この時間帯なんです!」


「断言すな! やっぱりアカンよ、そんなんじゃ! 大体なんでそんなメンバーが……?」


「あ、それ聞きます? 話すと長くなるんですが……」


 シアンが思い出しながら話し始める。

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