第5話 おいアンタ、今日は西暦何年何月何日だ!

蛇、イツァナグイは、それだけいうと何の前触れもなく消えてしまいました。


 さて、肝心の移動手段ですが。

 瞬間移動……は、根源的に不可能ではありませんが、目標となる場所をしっかり正定しなければ*いしのなかにいる*状態になって魔力がどうこうの問題じゃなく死にかねないみたいです。


 空を飛ぶ……は、もう一般的な能力過ぎて中二病とは結びつかないから無理と……。

 逆に、移動手段で中二病っぽい物を考えて見ましょう。


 自分の投げた石柱に乗って空を飛ぶ。無理ですね、ド○ンパが撃てませんし。

 海の上を走る……可能不可能で言えば可能でしょうけど、何千キロとありそうな距離を徒歩移動は考えてたく有りません。

 ならばどうするか。

 答えはコレです!


 「神性具現ディヴィニタス・インカーネーション潜影操手カルンウェナン


 粘性の高い液体に沈み込むような感覚とともに、身体が影の中に沈み込みます。

 影の中を移動する!何処に出しても恥ずかしくない中二病でしょう?


 しかも奥様、この影の中、物理法則をある程度自分で設定できる優れものなんです。

 とりあえず、海対策にかなり深くまで潜って……。

 いや、海自体はある程度の深さから光の届かない影扱いで素通り出来るんですが、居るじゃないですか、発光する魚とかそういうの。

 アレに接触したら強制的に影から弾き出されそうで怖いんですよ。魔力切れに関わらず即死じゃないですか、ソレは。

 「重力方向定義変更、目標日本、影航開始」

 日本だと思われる方向に「落下する」事で高速移動を実現します。

 しかも、空気が無いので空気抵抗で最大速度が定義されないのでそれはもう、ものすごい速度です。

 まあ、空気がないので逆に速度に実感が無いのですが……。


 そんなこんなで、9.8m/s2で加速し続けて海と思われる影の歪みを超えたのを確認して浮上を開始します。

 びっくりするほど早かったです。10分かかってないんじゃないでしょうか?

 というか、イツァナグイの想定外の方法だったのか、魔力の消費もそこまでではないです。


 さて、浮上先は日本で今一番魔力が高まってる場所にしましょう。運が良ければ魔物とそのまま遭遇できてしまったりするのではないでしょうか?


 





 いやあ、クラゲの魔物は強敵でしたね。


 ……いや、強敵でもなかったですね。普通に苦労せず倒せましたし。

 魔法少女ともお知り合いになれました。魔法少女ウィステリア・ヴェール、水流崎理珠さん。


 高校生ぐらいかな?しっかり者な印象の丁寧な娘さんで、アラサーの魔法少女としてはまばゆい若さでした。いや、今は私のほうがロリなんでしょうけど。

 白地に藤の花を散らした振り袖がまた似合う似合う。魔法少女の戦闘法衣バトルドレスで振り袖って、奥ゆかしさ満載でとても綺麗でした。


 しかし、魔生対なる公的機関は聞いたことがないですね。私が寝てる間に作られた魔法少女を運用する機関か何かでしょうか?

 というか、法整備しなきゃならないほど魔法少女って沢山いるんですね。私が拉致される前は2人で頑張ってたと思うのですが……。


 まあ、それは後で調べるとして……。

 では自宅に帰って通帳を回収しましょう。現金その他カード類は私が所持していたので拉致した組織が処分してるでしょうけど、自宅にある預金通帳は無事なはずです。残高もなんだかんだ家賃1年分ぐらいはあったはずですし、私の行方不明を連絡する家族もまあ、もう居ませんでしたから何もなければ自宅においてあった私物は全部まだ使えるはずです。

 私が拉致されたのが初冬でしたが、気温と植物の茂り具合から考えて今は初夏の手前ぐらい、ざっくり半年ほど居なかったぐらいならきっと大丈夫でしょう!


 と、そんな事を考えていた時期が私にもありました。

 ……というか、自宅がありませんでした。

 自宅があった場所は別の建物になっていたので……。ドラッグストアでした。

 

とりあえず、物陰に隠れて衣装を休眠状態デザインへ変更します。

 「休眠ドルミート

 ああ、完全に一般的な服装にしようと思ったら魔力根源さんが拒否されてらっしゃる……。


 もうちょっとフリル減らしたり……、あ、ダメですか……。

 で、眼帯は必須?

 え?何?私の右眼なんか特殊効果のある眼になっちゃってるんですか?あ、効果自体は魔法で設定するから今は単なる虹彩異色症ヘテロクロミアと。

 ……中二病だなぁ。


 ということで、待機状態へ変身しました。

 ちょーっと、と言うにはまあ、フリル多めかなぁという、ギリ普段着と言い張れなくもない黒のワンピース。

 眼帯が無いと右の銀眼が目立ってしょうがないらしいので、医療用の眼帯。

 あとはどうしても選択から外せなかったオーバーニーソ、魔力根源さんなにか変なこだわり持ってません?

 ということで、ちょっとファッション頑張り始めましたっぽい雰囲気を出した中学生っぽい外見の女の子が誕生しました。

 どうしても眼帯が痛さを誘いますが、ほら、ほんとに目の病気の可能性があるからセーフ。多分セーフです。


 さて、お金は無いので買い物は出来ませんが、元自宅だった場所に建ってるドラッグストアへ入ってみましょうか。

 しかし、私が思ってたより長い期間冷凍されてたのでしょうか?詳しい法律は知りませんが、私の失踪が確認されて、部屋が解約された後に建物が解体&建設されたわけでしょう?


 とりあえず、お店の商品の賞味期限を見るなりカレンダーを見るなりすればわかることです。

 もうインフルエンザのシーズンでもないのに入り口に消毒用アルコール。衛生観念がしっかりした店舗なんでしょうか?あと、やたらマスクのコーナーが充実してるのも気になりますね。

 で、こういうドラッグストアだと大抵セールの案内がカレンダー形式でどこかに……あ、ありましたね。

 

 202○年……?


 落ち着け、素数を……は、もうやったのでいいとして。

 10年……?私10年寝太郎だったんですか?


 そりゃ家は無いし知らない政府機関は設立されるし戦争だって起きますよ。

 だからですかー、10年経ってなんか色々あって魔法少女とか魔物とか増えていったんですねー?


 10年、10年かぁ……。

 ……レンジャー▲レンジャーは連載何処まで進んだんでしょうか?


 や、現実逃避してる状況じゃないですね。これはまずいです。

 まず、現金を確保できる目処がなくなりました。

 10年経過していて、容姿も昔の私と同一人物に見えない。保証人もおらず、身柄を証明できる品物が何もない中学生にしか見えない女の子。


 これは、働いて現金を稼ぐという選択肢が取れない事を意味します。

 や、なんか漫画とかにあるような気のいい店主の喫茶店とかそういうのを引き当てれば可能なんでしょうけど、普通のお店なら十中八九家出娘として警察補導コースです。


 その場合、本当に身分が証明できなくて保護者も居ないのでなんやかんやあって養護施設か何かに送られるのではないでしょうか?

 まあ、何処かのタイミングで影に潜って脱出するでしょうけど。


 現状、魔力はクラゲの魔物から吸収した分と戦闘&移動で消費した分が同じぐらいなので、飲まず食わずで2週間……。

 いえ、戦闘にだって魔力を使うのですから10日程度で私は死んでしまいます。


 魔生対の水流崎さんに連絡をつける手段もありますが、それは最後の手段です。

 政府組織に登録するとなれば、身分証やその他諸々の書類や手続きが必要になるでしょう?

 しかし、戸籍がないのはまあ、魔法少女になった拍子に記憶を失ったとかそういうごまかしができますが……。


 問題は身体の方、魔生対とかいうのは間違いなく正式な政府機関です。登録に際して様々な検査があることでしょう。

 ですが、私の身体が正常な活動をしていないのです。なにせゾンビなので。


 心臓は一応動いてる様子ですが、正直、外部から圧力を加えて無理やり動かされているような感覚があります。

 体温もなんか、生存が維持できる最低限で、魔力の消費が少なくなるように抑えられてる様な感じらしく、先程のドラッグストア入り口の体温計(顔を映すだけで計測できるとか便利でしたね?)で測った所30℃とか表示されて内心ものすごく焦ってましたからね。低体温症で死ぬ人は大体体温が28℃ぐらいだったと記憶してますし。


 まあ、まず間違いなく異常と診断されます。

 魔力に関する理解が、私の知る技術より10年進んでいると考えれば、結構な確率で魔力で動いているゾンビだと判明するのではないでしょうか?


 古今、どんな物語であれ権力者に不死のヒントを与えて碌な事になった作品は無いはずです。

 史実でも始皇帝が水銀を不老不死の秘薬としてアレコレして早死したのは有名でしょう。

 予想されるのは拉致監禁からの実験動物コースでしょうか?奇しくも死ぬ前と同じコースを死んでから辿るわけですね?笑えません。


 潜影操手カルンウェナンで窃盗をすれば容易に好きなものを入手できるでしょうけど、可能ならば避けたい手段です。それこそ、魔力が尽きる限界が見えてきたラインぐらいまで考えないようにしましょう。

 自分の都合で犯罪者になるのは、私のプライドとして避けたい事態ですし、水流崎さんには影に潜れることは知られていますので犯人特定も余裕でしょうから……。


 となれば、やはり魔物を狩り続けて魔力で生存し続けるバーサーカールートが選択肢として有力ですかね?

 イツァナグイは毎日のように魔物が現れると言っていたので、遭遇さえできれば命を永らえることは出来るでしょう。

 遭遇自体は、影の中から魔力反応を探って現場に急行する作戦で可能ではあるはずです。


 問題は、そこで遭遇する魔法少女達との関係性でしょうか……?

 水流崎さんの時は、なんかピンチというか苦戦してたので助太刀しましたという体で戦闘に介入しましたけど、現場にいる魔法少女だけで大丈夫そうだった場合、私が倒すのは獲物を奪ったことになったりしそうな気が……。


 撃破数のノルマとか何匹倒すと階級が上がるとか、倒した数だけ強くなるとかそういうのがあったりしたら私の存在、すごく邪魔になりますよね。


 これは、魔法少女関連の法律やら制度やらの確認や、10年の空白の世間とのズレを埋めるのを目的として図書館に行くべきですね!

 図書館法第17条「公立図書館は、入館料その他図書館資料の利用に対するいかなる対価をも徴収してはならない。」

 通称、図書館無料の原則。ああ、なんて素晴らしい。


 10年程度の期間の新聞であれば、それなりに大きな市の公立図書館には間違いなくデータが保管されているでしょうから大丈夫でしょう。

 身分証や図書館の利用カードは貸出の時にしか使わなかったはずですから、きっとダイジョブ……。

 さしあたって、2~3日は情報収集に充てるとしましょうか。


 ……カレンダーを見つめて微動だにしない少女を、不審がって遠巻きに見つめる視線から逃げるように私はドラッグストアから立ち去りました。

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