第1話 異世界転性 その4

 俺は今森の中を身をかがめてコソコソと這いまわっていた。

 情けないか?カッコつけて挑んだわりにやっていることがダサいと言うなら言ってろ。

 男の子だって怖いものは怖いんだ。

 むしろ、少女というより幼女のような見た目の女の子が熊に襲われているところを見たいか?

 俺は見たくない。

 小さな女の子が森で熊と出会って童謡のようにハートフルな展開にはならない。女の子が落とすのはリボンじゃなくて命だ。


 ガッササ!


 ビクッ!

「なんだ、俺が踏んだ蔦が絡まった枝が揺れただけか」

 急に身を隠している傍の藪が揺れるもんだからビビッた。ちびるかと思った。

 しかし怖い。

 例えるならホラー系のスニーキングゲームをプレイしているような緊張感だ。

 いるかどうかわからない敵に1人でかくれんぼをし続けるようである。きついのはいつ終わるか分からないところである。

 もう心臓がバクバクいってうるさい。

 うるさい、うるさい、うるさい。

 ……言ってみただけだ。

 ツンデレごっこでもして緊張をほぐさないとおかしく成りそうだ。……ん?むしろもうおかしくなってる。

 いかんいかん。ふざけてないで早く森を抜けてしまおう。このままでは心臓の鼓動で出会った人に吊り橋効果的に一目惚れしてしまいそうだ。

 べ、べつにあんたのことが好きになったわけじゃないんだからね。


 パーーーーーーーーン!


 平手で自分の頬を想いっきり叩いた。

 別に自分の頭がおかしくなったのを叩いて直そうとしたわけではない。

 顔の傍で「ぷ~~~~~~~~~ん」というアノお馴染みの音が聞こえて来たので反射的に叩いてしまったのだ。

「———蚊か」

 手のひらに張り付いた死骸を見てそうつぶやいた。

 ペレレッテッテッテ~~~。

 突然聞き覚えのあるサウンドが聞こえた。

「い、今のは―――【ファーストファンタジー】でお馴染みのレベルアップサウンド」

 何故ここでこれが聞こえた?

 疑問に思っていると、目の前にポップアップウインドウが現れ、レベルが上がったことを伝えていた。

「—————ぇ?まさか今の蚊を倒したことで経験値が入ったのか?」

 モンスター扱いなのかよ蚊。

 しかも蚊一匹でレベルアップってどんだけマージン低いんだよ。これならすぐに高レベルに成りそうだな。

「ん?実績の獲得」

 ウインドウにはレベルアップの通知に続いて実績を獲得したことが通知された。

 それによりシステムメニューに実績の項目が解放されたとある。

 早速中を確かめてみると。

「【初勝利】達成がアクティベートされてる」

 その報酬として実績機能の解放と書かれていた。どうやら【ファーストファンタジー・オンライン】とは異なる仕様になっているようだ。

 【ファーストファンタジー・オンライン】では実績はトロフィーに過ぎなかったが、どうやらここでは集めることで色々な恩恵があるみたいだな。

「ふむ、他の実績解放条件は」

 ウインドウを見るとほとんどが【?????】になっているが条件が確認できるものが幾つかあった。

「魔物の撃破10体、レベル10到達、武器5種獲得、防具5種獲得、ふむふむ基本なものばかりだな。あとは…………女子力5獲得?」

 は?

 なに?女子力獲得って。

 意味が解らない。これって何かの比喩?

 俺が男らしくあろうとしたところで何で女子力を求められるの?嫌がらせ。

「う~~~~~~む、分からん。とりあえずゲームの趣旨としてはRPGらしくレベル上げや装備の獲得で強くなるのに加え、実績を獲得していくことでいろんな恩恵を得られる仕様ってことでいいだろう。それに加え女子力が何かの成長要素でこれが特色なんだろう。つまり女子力を磨けという事か。—————だが断る!」

 ゲーマーとして成長要素を満たすのが基本だがそれが気にくわない時は無視するものだ。

 残念ながら俺は異世界に転生しているから買取に出すことはできないのでこの世界で生きていかないといけないが、別に縛りプレイでも構わんのだろう。

 と背中で語ってみた。

 それがいけなかったのだろう。

 新しい情報に夢中になって状況を忘れていた。周りへの注意がおろそかになっていた。

 背後の茂みをかき分けてヤツが現れた。

 振り返った俺の前にバーサーカー熊がいた。


「く、クマ~~~~~~~!」


 思いっきり叫んだ。


「に、人間~~~~~~~!」


 俺と熊だった。

 え?なんで。

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