第5話 シエラの処遇

 外出の自由がないだけで、翌日の午前中は何事もなくシエラは貴族牢でゆっくり過ごすことができた。


 昼食を終えた後、シエラは国王に呼び出された。


 部屋着から簡素な紺のドレスに着替えさせられ、シエラは案内人とともに呼ばれた場所に向かった。


 そこは王宮の奥にある内密に重要なことを話し合うための一室で会った。

 その簡素な部屋に王家と公爵家の関係者はすでにそろっていた。


「シエラ・マリア・ローゼンシア、ただいま参りました」


 シエラはいつものようにカーテシーをし、部屋の中の人々に挨拶をした。


「ローゼンシアを名乗るな、この偽者!」

「まったく、ずうずうしい!」


 公爵夫妻の罵声にシエラは戸惑った。


 いつもの習慣で言ってしまったことに過ぎなかったのだが。


「えー、それでは皆様お揃いのようですので始めましょう」


 王家と公爵家の関係者以外で部屋にいるのは、昨夜衝撃の告白をした魔女と、重大犯罪を裁く最高法廷のコレット判事。


 話し合いのまとめ役はコレット判事に任されている。


 実は昨夜の祝典が終わった後、王太子はシエラを罪人として裁くことを望み、コレット判事を呼びつけた。


「公爵令嬢や王太子の婚約者を語った罪とおっしゃいますが、今の今までご本人を含め、この国の人間すべてがシエラ嬢をローゼンシア公爵家のご長女と認識していたのでございますよ。赤子取り換えも、問題の老婆を裁くのならとにかく、取り換えられた方にいかなる罪状を付与されるおつもりなのですか?」


 判事は国王も同席していた場ではっきりと難色を示された。


 ゆえに仕方なく、関係者による話し合いの席にコレット判事を立会人として同席させて、彼女の処遇を決めることにしたのである。


「皆さま、昨夜のこの者の告白によっていろいろ混乱しているところもありましょうが、本日はローゼンシア嬢の処遇について話し合います」


 コレット判事が宣言した。


「ローゼンシア嬢とは誰のことだ?」


 公爵が不機嫌な表情で尋ねた。


「それはもちろん、本日処遇を話し合うシエラ……、あっ……」


 コレット判事は答える途中で口ごもった。

 

「ただのシエラ・マリアでいいんじゃないかしら。とてもきれいな名前よ。本当なら私がその名になるはずだったのよね。でも今更だし、あなたにあげるわ」


 サリエが優美な笑みを浮かべ、シエラの方をちらりと見た後に言った。


「サリエ、君は本当に寛大だ」


 王太子がサリエに微笑みかけた。


「ありがとうございます、王太子様。ふふ、それにしてもシエラ。その使用人用の紺の衣装、とっても似合っているわよ。あらら、勘違いしないで変な意味じゃないの。あなたはほっそりして本当にきれいだから、何を着ても似合うっていう意味よ」


 昨夜の夜会の時以上に豪華な衣装を身に着けたサリエが、再びシエラに語りかけた。


「ええ、本題に戻ってよろしいですかな。同様の事例がなかったか、昨夜過去の事件を調べましてな。悪意を持った第三者が赤子を取り換えるという事例はありませんでしたが、大火事などを原因とした取り違えなどの事例はあり、それを参考に意見を述べさせていただきます」


 コレット判事が恭しく出席者に語りかけた。


「ふむ、申してみよ」


 国王が判事の話を促した。


 判事の話によると、この場合、本当の子供もそうでなかった子供もどちらも被害者と言え、本当の子供を改めて実子として引き取るのはもちろん、そうでなかった子供も今まで親子として暮らしてきた事実を鑑みて、養子として迎えるのが妥当だとのことである。


「養子だって? 冗談じゃない!」


 公爵は吐き捨てるように一蹴した。


「う~む、そういうおつもりでしたら、修道院に預けられ、奉仕活動をさせるのが妥当な線かと?」


 

「修道院、それがそなたの見解なのだな、コレット判事?」

 

 国王は念を押し、思案を始めた。

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