婚約破棄された公爵令嬢ですが、魔女によって王太子の浮気相手と赤ん坊のころ取り換えられていたそうです

玄未マオ

第1話 二度目の婚約破棄

「シエラ・マリア・ローゼンシア、そなたとの婚約を破棄する!」


 はあ、またですか。


 そう思いながら、ローゼンシア公爵家の長女シエラはため息をついた。


「王太子殿下、今回はいかなる理由で『婚約破棄』を宣言なさっているのですか?」


 と、シエラは扇で口元を隠し、首をかしげながらたずねた。


「ふっ、卒業パーティの時にはうまく追及をかわして、まんまと僕の婚約者の座に居座ることに成功したようだが、今回はそうはいかぬぞ!」


 自信満々な顔で王太子は答えた。


 その自信はどこから、と、シエラはいぶかった。



 数か月前の卒業パーティでの婚約破棄宣言。


 アンジュスト王太子が、浮気相手のサリエへの虐め冤罪をシエラにかぶせてそれを成し遂げようとした。


 その時以来、彼女の方でも王太子への『愛情』らしきものは枯れ果ててしまっている。


 婚約関係を解消できるのはシエラにとっても願ったりかなったり。


 だが、王侯貴族の婚約は家同士の誓約でもあり、当人同士の気持ちだけではどうにもできないのがつらいところ。


 卒業パーティで王太子は来賓として国王夫妻が顔を出す前に、シエラの断罪を終わらせて婚約破棄の既成事実を作ろうとした。

 つまり親の目を盗んで勝手に王家と公爵家の約束を反故にしようとしたのである。


 しかし、王太子がシエラの罪科を証明する前に国王夫妻が現れ失敗。


 男爵令嬢サリエは、王太子をたぶらかし偽証で公爵令嬢を貶めた者として、貴族牢に入れられ沙汰を待つ存在であった。


 だが、今宵なぜか、国中の貴族が集まるこの国王生誕祭の会場にいて王太子のそばに立っている。


 家門の高さ、および、王太子と年回りが近いだけで選ばれた婚約者。 

 それがシエラの学園内での評価だった。


 サリエは王太子にしなだれかかり上目遣いで哀れっぽくふるまいながら、シエラをチラ見しては勝ち誇ったように笑みを浮かべた。


 

「つくづく気味の悪い髪と目の色をしておるな、シエラよ」


 王太子は突然、シエラの生まれ持った髪と目の色を貶めた。


 この国の者の髪は薄茶色から金色、瞳は主に青系統の者が多い。

 その中でシエラの銀髪と金色の瞳は珍しかった。


 シエラの父はハニーブロンドに薄青色の瞳、母はストロベリーブロンドに青緑の瞳、弟妹達もそのどちらかの色を受け継いでいた。

 それゆえシエラが生まれたとき、父は母の浮気を疑ったほどだったという。


 家族の中でもシエラは異分子だった。


 母が親しくしていた男性の中にもシエラと同じ髪色の者はいなかったので、浮気自体は疑いの域を出なかった。

 しかし、父は長女のシエラを実の娘として接することは生まれてこのかたなかった。

 母もそんなシエラを次第に疎んじるようになった。


 公爵家は両親と後から生まれた弟妹達だけが家族としてまとまり、シエラ一人がはじかれていた。


 両親の姿勢から使用人たちはシエラを軽んじるようになり、中には陰湿ないじめをしてくる者もいた。

 レースや宝石に囲まれ何不自由なく育てられる貴族の令嬢は、使用人、特に若い女性たちにとっては妬みの対象である。そんな中、家長から疎んじられている存在は、うっぷん晴らしのいい対象となる。

  

 虐めねえ。

 私は家でも学園でも、自分を虐めにかかる者たちの攻撃をかわすので精いっぱいで、他人を虐める余裕なんてなかったのだけど……。


 シエラがそう考えている最中も、サリエはシエラには侮蔑のまなざしを向けていた。


「そのようなすました顔ができるのも今だけだ。私はそなたの化けの皮を剥ぐことのできる証人を知っている」


 王太子は居丈高にシエラに言った。



 ☆―☆―☆―☆-☆-☆

【作者あとがき】

 サクッと短編に初挑戦。

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