第26話 適性試験 ~Before 60 Days~

 学科試験の後は適性試験だ。


 生体端末に届いた案内に従って、訓練場に入る。

 

 そこにはスキンヘッドの職員が腕組みをしながら立っていた。

 試験官だろうか。

 側まで近寄ってから、胸に拳を当て、敬礼する。


 「月詠つくよみカグヤ候補生です。本日はよろしくお願いします」

 「準備ができたら、そこの機器に手を当てなさい。最初は熱量エネルギーの出力計測だ」


 試験官で合っていた。

 言われた通り、床から生えている円柱の機器に手を当てる。


 円柱の頭頂部に数値を表示する液晶モニターがついている。

 熱量エネルギー供給を開始する。

 モニターに数値が表示されると、試験官の職員が唸り声を上げる。


 「あの、トラブルでしょうか」


 思わず試験管の方に首だけ向けて、尋ねてしまった。

 

 「いや、続けなさい」 

 

 続行の指示が出たので、いつものように供給を続ける。

 熱量エネルギーの供給量は、いつもより少ないかな。

 ちょっと、気合を入れて供給量を増やす


 「そこまで」


 熱量エネルギーの供給を止める。

 試験官の方に振り向くと、何度も唸り声を上げている姿が見えた。

 計測結果を見ているようだが、一体どうしたのだろう?

 

 「月詠つくよみカグヤ候補生」

 「はい」

 「君は、自分がどうして高出力適性を持っていると思う」


 唐突に尋ねられた。

 これも試験の一環だろうか。

 

 以前、オキナに自分が高出力を出せるのはプラトン採掘基地、自分の家のためと答えた。

 だけど今、そう答えるのは正しくないと思う。

 それに、自分の中でも答えは変わっている。


「月の操縦者オペレーターとして、大切に育てられたからです」

「…新月しんげつでもホシクズは輝く、ということか」

「なにかおっしゃいましたか?」

「いや、何でもない。次の課題に移る」


 試験官の言葉で周囲の景色が変わる。

 見慣れた月面の風景だ。 

 空間モニターを部屋全体に投影しているのだろう。

 

 試験課題の内容は、施設整備や宇宙船の操縦といった、採掘基地で日常的にしていることなので、苦戦はしなかった。


 全ての試験課題が終わった時、試験官は僅かに口元を緩ませて、静かな笑みを浮かべていた。


 納得してもらえただろうか。

 自分達が、残したもの結末に。



 適性試験を終えて、宿舎に移動する。

 用意された宿舎は、一つの部屋にデスクとベットを押し込んだ個室だった。


 個室に入ると、そのまま直ぐベッドに倒れこむ。

 丸一日を、試験に費やして疲れた。


 このまま眠ってしまいたい衝動にかられるが、制服が皺になる。

 明日も試験結果を踏まえた面談がある。

 しわだらけの制服を着るわけにはいかない。


 起き上がって、上着を脱いでいるポケットが振動していることに気が付いた。

 手を入れポケットの中にあった通信端末を取り出す。


 通信端末の液晶に文字が表示されている。

 表示を読んでから、通信端末を上着のポケットに戻す。


 これはオキナの望みじゃない。

 月の人達が、積み上げた成果じゃない。


 制服をハンガーにかけて寝巻に着替える。


 さあ、明日に備えて早く寝よう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る