第18話 地震


 宇多方について語ろう。


 桃乃華市の町外れに、老夫婦が二人でやっている古びた定食屋があった。そこそこの人気店だったのだが、何の前触れもなく、突然消失した。


 消えたのは、老夫婦だけではない。木造の店舗をのせた土台ごと、どこかに消え失せたのだ。跡に残ったのは、殺風景な空き地だけだった。


 隣家の証言によると、夜遅く、定食屋主人の「地震だ!」という叫びを聞いたという。奇妙なことに、隣家では、揺れを全く感じなかった。


 定食屋に通い詰めていた多くの常連客は、老夫婦の帰りを心から待ちわびていたらしい。その願いが叶えられたのは、半年後のこと。消えた時と同じように、突然、古びた定食屋が元の場所に帰ってきた。


 老主人の話によると、地震によって見知らぬ場所に飛ばされたらしい。


 そこは砂漠のオアシスの近くであり、定食屋の中で呆然としていると、異国の旅人が通りかかった。食事を求められたので、老主人は手料理をふるまったという。数日後に食糧が尽きてしまったが、幸運にも、再度の地震で帰ってこられたという。


 つまり、こちらの半年間は、別界の数日にすぎなかったことになる。


 定食屋が帰ってきた時も、やはり、隣家では揺れは感じられなかった。古びた建物は砂をかぶって、うす汚れてはいたが、以前と何ら変わらなかった。


 ただ、老夫婦は人柄が変わってしまった。以前は明るく愛想がよかったのに、なぜか暗くて不愛想になってしまった。まるで中身が入れ替わったようだったらしい。


 常連客は次々と去っていき、店は開店休業状態になってしまった。そのうち、老夫婦も失踪をしてしまい、後には、朽ち果てた店だけが残ったという。



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