第12話 連鎖自殺事件


 宇多方について語ろう。


 奈楽市の男子校で以前、奇妙で悲惨な事件が発生した。五人の生徒が五日連続で次々と、飛び降り自殺をしたのだ。月曜日から金曜日までの毎晩一人ずつ、校舎の屋上から飛び降りたという。


 三年生が一人、二年生が二人、一年生が二人。全員、遺書はなかった。

 クラスと部活は別々であり、五人に共通点は見当たらなかった。それぞれに面識はなく、顔見知りでもない。


 最初に飛び降りた三年生は、文武両道ぶんぶりょうどうで知られる美男子だった。有名私大合格間違いなしのお墨付きをもらい、上京後にはタレントの卵として芸能事務所に所属することになっていた。


 前途は光に満ち溢れていたのに、なぜ、自ら命を絶ったのか?

 その理由を知る者は一人もいない。


 ただ、他の四人なら、心理学者がこう分析している。

「生徒会長の自殺に強く感化され、人生に絶望したのだろう。今の若者は自主性に欠ける。空気を読んで他人に合わせてばかりだし、独自性がないために、尊敬する人物の影響をもろに受けてしまう」


 なるほど、説得力のあるコメントだ。

 しかし、僕は知っている。真相が異なることを。


 生徒会長は「戻り人」だった。二年生の夏休みに神隠しにあい、十日後に、現世に戻ってきた過去をもっている。彼が姉にもらした話では、生還の直前、別界の者と契約をしたらしい。

「一年以内に五人の生贄いけにえを捧げよ。もし、契約を反故にすれば、全校生徒の命を奪う」と警告されたのだ。


 生徒会長は、自分が生贄になる決意をした。自分以外の四人の選択は悩みに悩んだ末、くじ引きを行ったらしい。学年とクラス、出席番号を明記した くじを作り、全校生徒から四人を選んだのだ。


 四人には、何の落ち度もない。ただ、運が悪かっただけであり、交通事故にあったようなものだ。生徒会長が最初に飛び降りた。残りの四人は、別界の魔物に誘われるままに、屋上から身を投げた。


 これが、連鎖自殺事件の真相である。


 生徒会長の姉の証言以外に、裏付けは一つもない。

 ただ、別界の魔物がからんである根拠としては、五人の死体から全ての血液が抜かれていたことが挙げられる。




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