第5話 海賊放送


 宇多方について語ろう。


 全国各地から、海賊放送が発信されている。噂では、それらの一部は外国人スパイに利用されているらしい。海賊放送の電波にのせて、本国に暗号を送っているというのだ。


 もちろん、裏付けなどとれない。都市伝説の類である。


 ただ、それと似たようなことが、宇多方で行われているらしい。ラジオ番組が流すヒットナンバーには、歌手もラジオスタッフも知らない、秘密のメッセージが込められているというのだ。


 それを耳にした聴取者は、知らず知らずのうちに、巧みに誘導されてしまうらしい。

 食べ物の好みが変わるぐらいならいいが、政治思想が一変したり、犯罪に対する禁忌が薄れたりするのは、大変おそろしいといえる。


 ある大学教授は、主張する。

「行方不明者の数が全国で最も多いのは、海賊放送にこめられた秘密のメッセージが原因である」と。


 ラジオ番組のヒットナンバーには、巧妙に、「別界」の旋律がまぎれこんでいるらしい。その旋律は「別界の門」を開き、聴取者を「別界」へと誘うというのだ。


 ぜひ詳しい話を聞きたいところだが、未だに果たせないでいる。

 なぜなら、大学教授本人が神隠しにあってしまったためだ。



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