魔剣が導く先代魔王の英雄譚

水無月ミナト

序章 魔族を知る

第1話 邂逅

『それ』は異常なほどに目を引いて離さなかった。

 現代日本にはあまりに似つかわしくないものだった。

 科学が発達し、鉛玉が飛び交うことすらあまりなくなったのに。戦場は地上から海上、空へと変わり、今では蜘蛛の巣上で遠隔から争っているのに。

 だけど、赤城暁——男子高校生の興味を引くには、十分過ぎた『それ』。

 不自然に宙に浮かぶ『それ』——禍々しい瘴気を放つ剣に、赤城暁は手を伸ばした。


 ☆☆☆



 その日は何一つ変わったことのない1日だった。

 赤城暁にとってのルーティンの1日が、いつものように始まった。

 朝、親に起こされて眠い頭のまま階下に行き、食事を済ませて身支度を終わらせた。

 いつものように自転車にまたがり、高校へと向かう。

 教室では友人と挨拶を交わし、昼休みには弁当を食べ、放課後になると部活に行く人を見送り家路に着いた。

 その途中。

 買い食いのためにコンビニに立ち寄り、友人より先に買い終えた暁は正面の土手を登って川を眺めていた。

 川をぼけっと眺めていたその時、赤城暁の目に何かが映った。

 現代ではなかなかお目にかかれない『それ』は、最初見間違いだと思った。だが、一度逸らした視線をもう一度向けてみても、『それ』は変わらず目に映る。

 暁は何の気になしに、土手を降りて近づいていく。

 次第に大きくなる『それ』に、目が輝き心が躍る。見間違いでもなければ、そこに確かに存在している。不自然に宙に浮いているが、今の暁にはどうでもいいことだった。

 後ろから友人に名前を呼ばれる。だが、暁は無視して『それ』に近づいていき、そして手を伸ばした。

 暁が禍々しい剣に手を触れた瞬間、光が弾けて視界を真っ白に染めた。

 友人は固く目を閉じ、手を顔の前に翳した。数秒ほどで光は収まり、手を下げてゆっくりと目を開けた。

 しかし、その視線の先に暁はいなかった。忽然と姿を消し、また剣も同じように消失していた。

 目の前で起きたことに理解が追いつかず、友人はただ茫然と小さく暁の名を呼ぶしか無かった。

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