第4話 基地

ー第1階層ー


朝日の眩しい光でカインは目を覚ました。クッションを敷いて寝たとはいえ、やはり地面はゴツゴツしていたので体のあちこちが痛かった。あたりを見回すとシノはすでに起きて身支度を整えており、優雅にコーヒーを淹れていた。


「…おはよ」

「おはよカイン、寝癖すごいよ」


くすくすと笑いながら眠気眼のカインにコーヒーのカップを渡す。口をつけると砂糖のたくさん入ったカイン好みの味がした。コーヒーのおかげで目の覚めたカインは寝床を片付けてさっさと身支度をする。


「よーし出発!」

「おー…」


カインは朝から元気なシノの後ろをとぼとぼと着いていく。歩き、シノが獲物を狩り、料理し、寝る。そんな日々を繰り返しながら順調に旅を進め、5日ほどで第2階層への巨大な扉の近くまで到達した。扉の横に煉瓦造りの立派な建物が見えてきた。


「見えた…基地モーテルだ。今日は屋内で寝られるぞ」

「やったー!あったかいお風呂に入りたいな」


基地モーテル”…楽園アヴァロンの第4階層まで設置されている、探索者シーカーのための宿泊施設。衣食住が備わっており、野宿を続けている探索者にとってまさに天国である。


基地の近くはすでに沢山の探索者で賑わっていた。2人は基地の中に入り、宿泊手続きをする。羅針盤タクトを端末にかざすと、顔写真や名前、性別などの情報が表示される。受付嬢はシノの情報に目を通した時にびっくりした顔で情報とシノの顔を見比べた。


「ボクの情報何か変なところありましたか?」

「い、いえ!何でもありません!カインさんとシノさんですねっ」


彼女は顔の前で手をブンブンと振ってから、申し訳なさそうに頭を下げた。


「ただ、とても可愛らしい方だなと思っただけです。こちら本日の宿泊のお部屋の鍵です。大浴場は深夜までの営業で、夕食と朝食は大広間で配給されますのでお忘れなく」

「あ、ありがとうございます」


シノは「可愛い」という言葉に小首をかしげつつ、彼女から部屋の鍵をもらう。


「ではごゆっくりお休みくださいませ」


2人の部屋は2階にあった。部屋は小ざっぱりとしていて綺麗だった。2台のシングルベッドとちょっとした文机...泊まるには十分だ。部屋につくなりシノはベッドにダイブした。カインはその様子を見てため息をつく。


「ガキじゃあるまいし…。風呂入ってからにしろ」

「だって久しぶりのお布団だよ?ふかふかー...ってちょっと待ってよカイン!」


はしゃぐシノを尻目にカインはさっさと準備をして大浴場に向かおうとすると、シノはベットから飛び起きて急いで入浴の準備をするのだった。


大浴場は大広間のすぐ隣にあった。2人は服を素早く脱ぐと、体を清めてから湯船に沈んだ。湯船から2人分の湯が溢れ出る。体の力が抜け、旅の疲れが吹き飛ぶようだった。


「はあ〜気持ちいねカイン」

「ああ、最高だ」


シノが気持ちよさそうに腕を伸ばす。そんな彼の姿を他の探索者<シーカー>は驚愕した様子で二度見をしたり、顔を赤らめて見ていた。そんな邪な視線を送る輩に対してカインが鋭い視線を向けると、彼らは青い顔をして顔を背けるのだった。シノはれっきとした男である…が、昔からその華奢で可憐な容姿から性別を間違えられることが多かった。さらに、今は湯船に髪がつからないように結い上げていたので、余計に女の子に見えるのだった。


「最近筋トレ頑張ってるんだけどさ、なかなかカインみたいにムキムキにならないんだよね」


シノはそう言って、自分の白い細腕をむにむにと触ってカインのものと見比べる。カインは身長は160cmと小さかったものの、昔から鍛錬をしていたので筋肉はそれなりについていた。


「そんな一朝一夕で筋肉はつくもんじゃねえよ。いずれついてくる」

「そっかカインは昔からトレーニングしてたもんね。頑張るぞ!」


満面の笑みで意気込むシノ。その横で、ムキムキになった彼を想像し、その見た目のアンバランスさから「どうかこのままでいてくれ」と心の中で願うカインだった。


風呂から上がり、モーテルが貸してくれた部屋着に着替えると、大広間で夕食の配給をもらってから部屋に帰った。蓋を開けると湯気が立ち上がる。今日の夕食はハンバーグの弁当だった。ナイフをいれるとじゅわりと肉汁が溢れ出る。


「美味しい〜幸せ」


シノが舌鼓を打つ。カインも口には出さなかったが、口にあったようであっという間に食べ終わってしまった。2人は満腹になり、それぞれベッドの上に寝転んだ。


「安全だったのもここまでだ。明日からはもっと危険な魔獣や天魔が出てくる。無事じゃ済まないかもしれない」

「そうだね…でもボクは」


シノはベッドの上で寝返りをうち、カインと目を合わせてにっこりと微笑む。


「カインと一緒だったら、きっと大丈夫だと思うんだ」

「…そうかよ」


カインは呆れたように呟くと、目を閉じた。

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