#丁寧な暮らし

SACK

Day.1 アスパラのベーコン巻きと、台風前の大洗濯

AM5:00

小さめの音量のアラームで起きることができるようになったのはいつからだろう。学生の頃は大音量の目覚まし時計2つ枕元に置いても起きられなかったと言うのに。

携帯のアラームを止めると、隣でまだ眠る果穂を起こさないように隼人は静かにベッドから抜け出した。

まだ薄暗いリビングを抜けて、キッチンの灯りを付けると、綺麗に片付いた銀色のシンクが目に映り、炊飯器からは炊き立ての白米の香りがほのかに漂う。

エプロンを腰に巻き、冷蔵庫からベーコン、卵、アスパラ、プチトマトを取り出した。

ガラスのボウルに卵を3つ割り入れる。慣れた手つきで卵をかき混ぜ、白だしを適量。卵焼き用のフライパンに米油を軽く流し、よく混ぜた卵液を流し入れた。

1回目、2回目はぐちゃぐちゃでもOK。3回目あたりから形に気をつけ、4回目で完成させる。

綺麗に四角く巻けただし巻き卵をまな板に乗せ、あとは粗熱を取ってから切るだけ。果穂の好みのしょっぱいだし巻き卵の完成だ。

続いて、アスパラの周りを軽くピーラーで剥き、硬い皮を取り除く。そしてだし巻き卵の隅で三等分に切った。

耐熱の皿に乗せ、軽くサランラップを掛けて2分間電子レンジで温める。

「あちちっ」

温めたアスパラは熱くなっているので気をつけながら、周りにベーコンをしっかりと巻き付け爪楊枝を刺して固定する。

爪楊枝一本に対し2つ、ベーコンを巻いたアスパラを刺したら、今度はフライパンで軽く表面に焦げ目をつける。ベーコンの塩気もあるので、味付けは軽い塩胡椒でOKだ。

アスパラのベーコン巻きを量産して、あとは盛り付けるのみ。

弁当箱に白米をよそい、今日は胡麻塩のふりかけをかけた。アスパラのベーコン巻きと、熱が取れただし巻き卵を6頭分にし3つ入れる。あとは彩にプチトマトを隙間に挟むだけ。

「よし!完成」

湿気がこもらないようにしばらく弁当箱の蓋を開け、今度は朝ご飯の準備だ。

昨日作った全粒粉のパンを4枚カットし、クリームチーズを塗り、メープルシロップを掛けた。

そして2人分のコーヒーを用意していると果穂が寝室から出てきた。

「おはよー。いい匂いだー」

「おはよう。もう出来るよ」

眠い目を擦りながら顔を洗いにいく果穂に笑いかける。

コーヒーメーカーにカプセルを取り付けスイッチを押すと、途端に部屋中に香ばしい香りが充満する。

リビングのテーブルに2人分のコーヒーと、皿に乗せたパンを並べる。

「今日はパンだね。美味しそう」

「そう。昨日作っといたやつ」

洗面所から戻ってきた果穂と席につき、2人で手を合わせる。

「「いただきます」」

最近よく作っている全粒粉のパンは、もうレシピを見ずとも作れるようになった。小麦とはまた違うしっかりと弾力のある食感が隼人も果穂も好きだった。

「やっぱクリームチーズ乗せると美味しいね!」

「小麦のパンよりも合うんだよね」

「そうそう、全粒粉の風味が引き立つ」

果穂はいつもテレビで食レポをしている芸能人のように、細かく感想を伝えてくれる。よくそんなにボキャブラリーがあるな、と隼人はいつも感心するのだった。

テレビのニュースでは天気予報が流れ、台風が接近している為明日からしばらく天気が悪い、とお天気お姉さんが伝えてくれている。

幸い今日は晴れるらしく、明るくなってきた空を見ると、もう既に青空が広がっていた。

「今日は大洗濯かなぁ。洗濯物あったら出しといて」

「分かった、出しとく。よろしくお願いします!」

簡単な朝食はあっという間になくなり、再び2人で手を合わせ「ご馳走様」と声を揃えた。

果穂は化粧と着替えをしに寝室へ向かい、隼人は開けておいた弁当箱の蓋を閉め、箸と一緒に大判のハンカチで包んだ。

「はい、弁当」

髪を高めのポニーテールに結び、カジュアルだがオフィスモードに変身した果穂に、弁当箱を入れたランチトートを渡す。

「ありがとー!今日は何?あっ、待って、楽しみにしておくからやっぱ言わないで!」

「分かった分かった。じゃ気を付けてね」

「うん、行ってきます!」

「行ってらっしゃい」

背中が見えなくなるまで果穂を見送ったあと、部屋に戻り扉を閉めた。


AM8:00

ベッドシーツと枕カバーを外し、洗濯機に突っ込んだ。しばらく洗濯物が干せないとなると今日やるしかない。

洗剤と柔軟剤を入れ、スタートボタンを押した。

寝室に戻り、窓を開けて外の空気を取り込む。もう9月になったが、まだ夏の香りが残っている。

裸になったマットレスに粘着カーペットクリーナーを掛け、仕上げに除菌や消臭の効果のあるスプレーを噴射した。

ブランケットはベランダでばさばさと埃を払い落とし、そのまま物干し竿に掛けた。太陽の光をたっぷり浴びて気持ちがよさそうだ。

隅々まで掃除機をかけてからキッチンに戻り、朝ご飯で使った食器を洗う。と言ってもパンを乗せた皿2枚とコーヒーカップ2つだけだが。


AM9:00

ピーピーと洗濯機が終わりを告げた。

カゴいっぱいの洗濯物をベランダへ運び、一つ一つ皺を伸ばしながらハンガーに掛ける。

まだまだ熱い日差しと、今日は風も吹いているお陰できっと昼頃には乾くだろう。

空になったカゴを持ち部屋に戻ると、エアコンの冷気に体を包み込まれた。

「ふぅー、生き返る…」

数十分外に出ていただけだが、若干汗ばむほどの暑さだった。

キッチンに行き、コップに氷を入れて水出しのコーヒーを注いだ。

アイスコーヒーを手に自室に入り、パソコンを立ち上げる。

ヘッドフォンを頭にかけ、電子音に耳を澄ませた。

最近何度も聴いているメロディラインだ。

この曲には何が足りないだろう。もっとドラマチックにする為には他にどんな音が必要だろうか。

キーボードを操作し、ギターの音やドラムの音を足したり引いたりの繰り返し。

窓の外には爽やかな青空が広がっていると言うのに、隼人は部屋に篭りパソコンと向き合う毎日だ。作っている曲によってはカーテンも閉め、真っ暗な部屋の中で、制作する時もあった。

あの時期は若干性格も暗くなり「隼人くん、性格変わった?」と果穂に心配されたのだった。

それに比べたら今はマシか…。

アイスコーヒーを一口飲み、隼人は再び目を閉じて音に集中した。


PM13:00

空腹を感じ時計を見ると、もう昼過ぎだった。ヘッドフォンを外し自室から出る。

キッチンに行き、果穂の弁当用に作ったアスパラのベーコン巻きとだし巻き卵の残りを冷蔵庫から取り出した。

電子レンジで温めてる間に、炊飯器から白米を茶碗によそい、糠床からきゅうりを取り出した。軽く糠を洗い流し、斜めに切って少し皿に乗せる。残りは夜ご飯用。

果穂も今頃昼休憩かな?と考えながら、隼人も同じメニューを食べた。離れていても同じメニューを食べていると、何だか一緒に食事をしている気分になれる。

「うん、美味い」

我ながら、アスパラのベーコン巻きが美味い。シンプルな味付けだが、それが良い。

きゅうりの糠漬けも丁度いい塩梅で浸かっている。

糠漬けは気温や湿度、野菜の水分量などによって味が全く変わるから面白い。研究者のような気分で、隼人はいつも糠漬けを作っていた。

「ご馳走様」

1人で手を合わせて呟き、食器を片付けてからベランダに出た。

真っ白のシーツがひらりひらりと風に揺れている。青い空と白いシーツのコントラストが鮮やかで綺麗だ。

手で触れてみると、もうすっかり乾いていた。

カラッと乾いた洗濯物を全て取り込み、まだ太陽の温もりの残るシーツをマットレスに掛け直す。

他の洗濯物も畳み、それぞれの場所へ収納した。

「明日から雨か…」

電車で通勤している果穂のことを思うと、あまり暢気なことは言えないが、ベランダから見る湿った空や雨音が隼人は嫌いじゃなかった。洗濯物が外に干せないのは嫌だが。

天気予報のアプリで果穂が帰宅する時間帯を調べる。今日の18:00はまだ曇りマークだ。

[帰ってくる時間帯はまだ雨大丈夫そうだね]

果穂にLINEを送ってから、自室に戻り隼人は再びヘッドフォンを頭に掛けた。



to be continued…

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