第27話 決断


元の世界なんて、ぶっちゃけ戻りたくないんだよな。


20年以上経った今でも、ブラック企業で消耗していた記憶が鮮明に蘇ってくる。




俺は、致命的に"労働"が合わなかった。


その代わり、世界の仕組みを知ることが好きだった。世界の未来がどうなっていくのかを想像するのが好きだった。



俺は、営業成績の高い人間を当てるのが上手かった。


例えば、今の時代にお客さんに直筆でわざわざ感謝の手紙を書くやつ。仕事は遅いくせに顧客から愛されるやつで、とにかく継続契約を取るのが上手かった。


例えば、LINEがすぐ既読になるやつ。送ったら10秒で返事が返ってきた。俺はそいつをミスター自動返信と呼んでいた。顧客サポート力が抜群だった。




それと俺は、営業成績が悪い社員を当てるのも得意だった。


例えば、相手の時間を取るやつ。相談ばかりで何も解決しない。先輩からも、同僚からも、取引先からも次第に相手されなくなっていった。


例えば、俺の上司。ミスター自動返信を企画部に移動させた。仕事は早いが創造性が皆無だったミスター自動返信はすぐに転職した。そのくせ「せっかく推薦してやったのに根性ないやつだな」と恨み節を言い放っていた。




よく考えれば、、いや考えなくたって、この先がどうなるのかなんてわかることじゃないか。



過程を見れば、結果はだいたい予想がつく。全て的中させることは無理だが、10回中7回は当たる。





だから、俺には株式投資がピッタリだった。


最初に買った四菱は5年間株価が上がらなかった。M&Sショックにも巻き込まれた。全て予想できたわけじゃない。


だけど、中島屋株のブームや、武富土の暴落を的中させたし、八川中央銀行も狙い通りの株価推移になった。


暴落したM&Sだって結果として今では300倍以上になっている。あの時株を手放していたら、今の利益は無かった。



ラスベガスでギャンブルを1回で辞めたのも、負ける俺の未来を予想できたからだ。






じゃあ、未来の俺は何してるんだ?


いや、近い未来は想像できない。けど、10年後の俺ならなんとなく予想が付く。






投資家の最大の武器とは何か?


『投資の神様』と呼ばれるウォーレンバケットはなぜ莫大な資産を築き上げられたのか。


それは投資が上手かったから、だけじゃない。




」だからだ。




ウォーレンバケットの資産の99%は50歳以降に築いたそうだ。今の俺は48歳。




これからどうなるのか。楽しみが一つある。




『どこまで資産を築き上げられるのか』


これを試してみたいんだ。











「・・・アレックス」



「答えが出たのね。どんな答えでも、私は受け入れるよ。」



「俺、決めたよ。」



「なに?」



「・・・俺の寿命を限界まで伸ばしてくれ」



「へ?それが答え?」



「ああ。できるか?」



「M&Sに不可能はないからね。当然、できるよ。」



「見た目年齢は実年齢よりも少し若く。体力も衰えないようにしたい。」



「はいはい。」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る