第2話 激戦の後…2

 暗闇の中で静音処理された機械音らしき僅かな振動が俺の鼓膜を刺激したので、すぐに目を覚まそうとするが全身の動きが鈍い。


 全身を動かそうとしたところで複数人の気配を感じとり、警戒したが既に遅かった。


「優性NDネオン・ドライバーが目覚めました、いかがしますか?」


「処置」


「了解」


 どこかで聞いた様な音声が聞こえた直後、体内に温い何かが浸透していき、俺の身体の意識は再び暗闇の中へと沈んでいった。

 しかし、ND専用回線でしかアクセス出来ない擬似肉体は無事な為、ある自称学者の爺さんと純真無垢な人工NDの少年から教わった方法で擬似肉体の方に意識を移し、本来の身体の経過を見守る事にしておいた。


 数日後…


 本体を乗せた隠密船は二重構造の特殊装甲であるEx-FC装甲を展開して新惑星の大気圏に突入し、静音かつ無振動で摩擦熱による発光もないまま静かに大気圏を突き抜け、暫くすると隠密船は飛行形態に変形して上空を飛行していた。

 意外にも本体は特に弄られる様子もなく、定期清掃されて丁寧に安眠カプセル内に安置されていた。

 ND専用パイロットスーツなどの身包みは剥がされているが、代わりに品質の高い衣服を着せられているらしく、本体から伝わる微かな感触から大体は察することができた。

 


 俺が乗っていたクラネオンⅣは意識の移した擬似肉体を通じてVNFSバリアブル・ネオン・フォルム・システムからの信号が身体に伝わり、僅かな重力と浮遊動感から場所は宇宙のどこか…、宇宙船ドックに似た建造物に運ばれているのか、或いは何処かの惑星に送られているのか…。


 いずれにせよ、クラネオンⅣは売却か解体か、修繕して放置か、再び俺の愛機となるか…。


 ND専用機を利用できる奴がいない限り、そんじょそこらの大中規模組織ではクラネオンⅣの維持費用などとても払えるものではないからな。

 

 …と呑気に思考していたが、クラネオンⅣの損傷率は90%に近いので、正直売却するにしろ可能な範囲で修繕してからになるから怪しいところである。

 ネオン系ZWの生みの親である柘榴博士御用達の設備や旧政府軍基地のZW開発工房並みの設備があれば話は別だが、軍関係者でない限り普通に考えれば可能性は低い。

 仮に設備があったとしても、クラネオンⅣはN適性がある人間でないと扱えない。

 ネオン系ZW修理装置のあるリペア・ネオンを用いて修理するにしても、パイロットにN適性の有無が問われる。

 リペア・ネオンを無人で運用するにしても専用の自律回路であるNZWAIを搭載している事が前提になるので更に条件が縛られて難しい。


 …これ以上考えても、一般組織には非常に厳しい条件にうんざりするだけになるので、俺は愛機の成り行きについての考えをやめた。

 

 …大穴ではあるが、此奴らが全てを備えている組織ならば、早く脱出する事も出来よう。

 そうでない場合は情報収集が済み次第、身一つで脱出する事になりそうだが…。

 

 どちらにせよ恩義も借りも早急に返し、組織を脱して元の居るべき場所に戻る。さすればガイツレイの激戦で散っていった仲間を弔う事も出来よう。

 …弔ったあとは傭兵にでもなって戦の燻りを潰していくのも悪くない。


 …しかし、また賊や同業者を相手に暴れ回るのか、懲りないな…俺も。


 光牙は情報の海の中で思索に耽っていたが、身に染みついた戦の感覚は如何ともし難い事に半ば諦観気味に自嘲し、擬似肉体を休眠させて意識を休ませた。



 

 

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