第18話  泣いて叫んで、その心を曝け出して

 デートもといお出かけで向かったのは近くにある大型ショッピングモールだった。


「ここのスイーツおいしいって評判なんですよ!」

「そうなんだ」

「食べましょう」

「そうだね」

「ショートケーキにモンブラン、チーズケーキも捨てがたいですね……。桜木くんはどれがいいと思いますか?」

「高崎さんが一番食べたいと思うやつでいいと思うよ」

「……」


「ん~、この服なんてどうですか?」

「いいんじゃない」

「それともこっちの方が?」

「そっちもいいね」

「……」


 なんというか何をしても詩音のことが気になってしまい、心ここにあらずのような状態になってしまっていたので高崎さんへの返事はひどいものだった。


 多分、付き合いたてでガチガチに緊張しているカップルでももう少し上手い会話ができたと思う。


 結果的に会話が続かなくなって昼過ぎには家に戻ってきた。


 このまま解散するのは何か違うような気がしたので僕の部屋になんとなく彼女を招き入れる。


 すると、僕が謝るよりも先に開口一番で彼女から謝られた。


「すみません。私がただただ連れまわしただけになっちゃって」

「いや、全然。気分が楽になったよ。ありがとう。それにこちらこそごめん」

「……こんなときでも優しいですね」

「……」


 気まずい沈黙が僕たちの間で流れる。


 この空気をなんとかしようと何か話そうと思うも何も出てこない。


 そんな僕に高崎さんは悲しそうな顔を向けてきた。


「……全然大丈夫じゃなさそうなのに」

「……えっ?」

「鏡か何かで自分の顔見てみてくださいよ。なんというか疲れた顔をしていて、その内どこかに消えちゃいそうな……あの日みたいに飛び込みそうな雰囲気をしてますよ」

「……」


 高崎さんの言わんとすることが分かり、少し目を逸らす。


「ちゃんとっていうのもおかしいですけど泣きましたか? その辛さを吐き出しましたか?」

「……一回泣いたよ。詩音が事故にあった当日に」

「ちゃんと辛いって言いましたか? 自分の気持ちを実際に声に出して叫びましたか?」

「それは……」


 真面目な彼女に嘘を吐くのは憚られた。


「桜木くんは今自分で自分の気持ちに蓋をしちゃっているんです。このままだと壊れちゃいますよ」

「……」

「前に私が言いましたよね。私にその片想いを終わらさせてくださいって。そのときに答えはもらえませんでしたけど、改めて訊きますね。——私にその片想いを終わらさせてくれませんか? もう我慢ばっかりじゃなくて私に頼って、甘えてくれませんか?」

「……」

「嫌なら逃げてください。十秒待つので」


 たった十秒で僕に判断など出来るはずがなかった。ただ少なくとも覚悟の決まっているのだろう高崎さんを前にして逃げる気にはならず、そのまま僕は何もしなかった。そして、たっぷり十秒、おそらく二十秒ほど経ったところで彼女の吐息が耳をくすぐった。


「タイム……リミットです」


 その言葉と同時に気が付いたら僕は彼女に抱きしめられていた。


 なんだかその温もりは僕のことをとても安心させてくれて、勝手に涙が溢れだした。


 彼女は僕が泣き止むまでいつまでも僕の背中を子どもをあやすようにさすり続けてくれた……。



————————


分かりやすい題名の案、無限に募集

そろそろ高崎さん(一ノ瀬さん)視点回もいれたい……。

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