勇者♀がお供にしたスライムは、人格排出された魔王♂だった件。

茉莉鵶

第一話 「黒色のスライム」【勇者♀目線】

────「魔王の居城」


 「みんな?いくよ?」


 ここに辿り着くまでにどれだけの出会いや別れを経験しただろう。

 私は、国王により魔王の討伐を命じられ、仲間達と命運を共にしてきた勇者だ。

 名前は、ミレーズ・ルゼンダと呼ばれているが、元々は姓などない貧民街の生まれだ。外見は…黒髪のシャギーに蒼色の瞳、蒼白い肌に小柄だが、プロポーションには自信がある。


 勇者の素質は出自に全く関係なく、十歳を迎える頃に発現する。その為、十歳になると全ての子供は、勇者の素質があるかの選別を受けなければならない。


 ちなみに勇者の素質の選別が終わるまで、即ち十歳未満については奴隷にする事は出来ない。

 万一、掟を破りその奴隷が勇者だった事が発覚した場合、奴隷商人は勿論のこと関わった全ての者及びその家族親類に至るまでが、土地財産を没収された上で死罪となる。

 もし、家族親類に十歳未満の者が含まれる場合は、十歳になるまでは執行保留とされ選別後、勇者の素質がなかった場合は容赦なく死罪となるのだ。


 何故そんなにも、事情に詳しいのかといえば、私がそうだったからだ。貧民街で暮らす両親の間に女児として、私は生を受けた。だが、生活は困窮しており金に目が眩んだ親は、私が八歳になると奴隷商人に売り渡してしまう。

 そして、ある貴族の男に奴隷として買われた私は…絶望しかない辛く厳しい日々を過ごしていた。


 やがて二年が過ぎ、私は身も心も壊れかけてはいたが、十歳になっていた。

 そんな、ある日の事だ。

 国王の命により、一斉に十歳の子供の捜索が行われたのだ。


 その年、勇者の素質のある子供が見つからなかった。

 だが、勇者の素質を選別する剣は微かに光り輝いており、勇者の発現を告げていたのだ。


 間もなく、私を奴隷として買って蹂躙していた貴族の男の家にも国王直属の親衛隊が押し入り、私を見つけると直ぐに保護された。

 そして、勇者の素質を選別する剣を持たされた私の額には、勇者の証の紋様が浮かび上がった。


 貴族の男は名門の一族だったが、禁忌を犯した罪により一族郎党根絶やしにされ、取り潰しとなった。

 国王の命によりその資産は全て勇者の活動資金、即ち私の物となった。


 前置きが長くなってしまったようだが、今私は勇者パーティを組んで、魔王の居城に来ている。

 これから、魔王が居ると思われる部屋に踏み込もうとしていた。


 「せーのっ!!」


 ──ガチャッ…


 「うわぁぁぁぁっ!!」


 部屋のドアを開けると、大声をあげて黒色のスライムが私に向かって飛びついてきていた。


 「えっ?!黒い…スライム!?」


 「助けてええええ!!」


 見た瞬間私はキュンとしてしまった。

 黒い色のスライムなんて一度も見たこと無かった。

 しかも可愛い…。


 「スライムさん!!おいで!!」


 ──ムギュンッ…


 私は両手を広げて、身体で黒色のスライムを受け止めた。

 纏わりつくスライムの身体は、冷んやりとしていて気持ちがいい。


 「えっ?!」


 ──バタンッ…


 黒色のスライムを受け止めた衝撃で、私は部屋の外に弾き出されてドアが閉まってしまった。

 そんな私の姿を見て、パーティの仲間達は驚きの表情を浮かべている。


 「お姉さん…ありがとう…。」


 黒色のスライムは私の身体に擦り寄ってきていた。


 「ひやっ…?!スライムさん冷たいよ…。」


 防具を着けていない肌の露出している部位に、黒色のスライムの身体が纏わりついてきて思わず私は声をあげた。


 「あっ!?ゴメンなさい!!」


 「でも、何で魔王さんの部屋になんか居たの?」


 凄く気になってはいた。

 スライムが魔王の部屋に入れるものなのかと。


 「魔王様はここには居られないみたいです。手下は居るみたいですが。」


 「スライムさん!!その話、本当ですか!?」


 求めた答えではなかったが、魔王が部屋に居ないとは驚きの答えだった。


 「ボクも魔王様に用があって来たんです。でも、もうここからは去った後みたいで…しつこく聞いたら手下に殺されかけました。」


 「うーん…。皆んなは、どう思う?」


 勇者パーティの仲間達に意見を求めた。


 「確かに…!!誰でも分かる魔王の気配、急にしなくなりましたよね?」


 最初に私に意見を伝えてきたのは、司祭のリュリエ=ヴェステルだった。外見は紅いロングヘアに、黄色い瞳、褐色肌で背は小柄でスレンダー体型で、驚く程可愛い。

 彼女は孤児で、ヴェステル司協と呼ばれる人物が、彼女を含む多くの孤児達を自分の養子として迎え、大事に育てた。

 その為、ヴェステル姓を名乗る者の殆どは、成長した孤児達だ。殆どと言うのは、その中にはヴェステル司協も含まれているからだが、非常に謎が多い人物で、直近の姿を見た者は誰もいないようだ。


 「そうだな。城に入ってからもここに来るまでは、魔王の強大な魔力がひしひしと伝わって来ていたんだがな…。」


 次に私に意見を伝えたのは、騎士のユーディン=ウェイゲルトだ。外見は蒼い長髪に、翆色の瞳、白い肌で背は大柄で筋骨隆々系の端正な顔立ちのいい男だ。

 彼は代々騎士の家系で貴族なのだが、私やリュリエのような身分の人間に対しても、分け隔てなく接してくれる優男だ。難点なのは、皆で酒を飲んだ後は手癖が悪く、女性絡みのトラブルが絶えない。そこさえなければ、騎士の鏡のような人物だ。


 「ああ、確かに魔王のオーラが消えたな。また、魔王取り逃したってことか…?これで…何度目だ?」


 最後に私に意見を伝えたのは、魔術師のアヴィルドだった。外見は金色の短髪に、紅色の瞳、黒褐色の肌で耳の先は尖り、長身で痩身の綺麗な顔立ちだ。

 彼はダークエルフなので、本来は魔王側に仕える事が多いようだが、何故か勇者側に仕えている異端児だ。しかも口が悪いので、この勇者パーティの中でもかなりの毒舌キャラなのだが、愛嬌がある為不思議と皆んな許せていた。


 「また…なんだね。魔王さん、なかなか私と剣交えてくれないね…。なら、一度引き返そっか…?」


 「ボクも、引き返すのに賛成です!!」


 それにしてもこの黒色のスライムは可愛い。

 私の腕の中で、抱かれるように大人しくしている。

 でも、何で魔王の部屋に居たのだろうかという疑念が湧いた。


 「ねぇ…スライムさん?何で、魔王さんの部屋にいたのか、正直に教えてくれない?」


 黒色のスライムを抱きながら、私は優しくヨシヨシと撫でながら問いかけた。


 「実は…ボク…。」


 「なになに?」


 やはり何かあると睨んでいた私は固唾を呑んで、黒色のスライムの発言を見守った。


 「実は…。魔王様へ好物の果物を、定期的に届けに来てました!!」


 「へ…?!」


 黒色のスライムの言葉に私を含めて他の三人も拍子抜けしてしまった。


 「キミ、魔王へ果物届けてたの!?」


 「そうなんですよ。ボクの住んでいる辺りで採れる果物が美味しいみたくて。」


 全く悪びれる様子もないので、本当の事なのだろう。


 「じゃあ、あの部屋には本当に手下しか居ないんだな?」


 「はい。手下に魔王様がどちらに行かれたかを聞こうとしたら、凄い剣幕で…。」


 話に熱が入っているようで、黒色のスライムは私の胸元で激しく動いている。

 そんな動く姿も可愛い。

 ずっと眺めていられる。

 だんだんと黒色のスライムを、自分の側に置いておきたいという欲望にかられてしまった。


 「ねぇ…?スライムさん…!!」


 「どうしました?」


 もう私の心臓はバクバクと聞こえそうなくらいに高鳴ってしまっている。


 「私の…お供になって貰えませんか?」


 思わず言っちゃった。

 断られたらかなりショックだけど。


 「良いですけど…。ボク、スライムだから…意識せずエッチなことしちゃってるって事あるみたいで…。」


 この冷んやりとした感触。

 フニフニ柔らかボディ。

 滑らかに纏わりつく触感。

 私、この黒色のスライム相手なら何でも許せる。


 「私、元奴隷だから…そう言うのは慣れてるから平気です…。」


 「えっ?!奴隷だったんですか!?」


 奴隷だったとは口外するなと言われてきたけれど、お供になって貰う以上、教えといた方がいいと思った。

 かなり黒色のスライムは驚いた様子だった。


 「はい。私、勇者なのに…奴隷でした。では、えっと…スライムさん?お供宜しくお願いします!!」


 私は黒色のスライムを抱きながら、手を差し出した。


 「こちらこそ、ボクの名前はリンと申します。ミレーズさん、宜しくお願いします。」


 リンと名乗る黒色のスライムは私の手を握った。

 すると、私とリンの手が一瞬光り輝いた。

 これは契約成立を意味している。


 「じゃあ…リンくん?リンちゃん?これから宜しくね?」


 「はい、リンくんでお願いします!!」


 そんなこんなで、私達勇者パーティは、魔王の居城を後にした。

 一体魔王はどこへ行ったのだろう。

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