引きこもりイグアナと遭遇する

 ススムの提案で、週末も開放されているフリースクールを見学しに行くことになった。なんとご近所に3つもある。すげえな東京。


 思えばわたしの住んでいたクソ田舎にはフリースクールなるものは一軒もなかった。不登校からの引きこもりもやむなし、である。


 最初に訪ねたところはそこそこ広い庭というかグラウンドがあり、子供たちはカトリックのブラザーたちと野球やサッカーに励んでいた。スポーツによる情操教育に取り組んでいるのだそうだ。

 カトリックのブラザーたちがみんなニコニコしていて可愛かったし、わたしはスニーカー文庫未完の大作「トリニティ・ブラッド」が世代直撃なのでブラザーと言われるとワクワクするのだが、アユムくんはあまり運動が得意でないということで、保留となった。

 小学生の生活において運動音痴は巨大な問題である。ちょっとノロいだけでバカにされてしまう。でも大人になればそんなこと誰も気にしない。だから無理することはない、というのがススムの意見である。ススムも運動音痴だった。


 次に見学したのは何やら恐ろしげなおばあさん先生が指導しているところだ。学校教育というものに疑問を持ち、小学校の教師をやめてフリースクールを開いたらしい。そこの子供たちはとても礼儀正しく、すれちがえば挨拶してくる。


「ちょっとここは堅苦しすぎないか」

 ススムがわたしのほうを見る。


「うん……まあ保留にしてもう一軒も見てみようよ」


 というわけでもう一つのところに向かう。今度は雑居ビルの中だ。

 入るなり入り口に巨大なイグアナがいて小松菜をモシャモシャ食べていた。リードで繋がれているから簡単には逃げないだろうが、ちょっとビックリした。


「イグアナ……あっ、フトアゴヒゲトカゲ!」


 アユムくんはちょっと先の水槽を覗き込んだ。トカゲが飼われている。ほかにもカメやらカエルやらモルモットやらカナリアやら、いろいろな動物が飼われている。

 そこの代表はモヒカンにピアスの、いささか東京の怖さを感じさせるお兄さんだったが、話してみるとすごく穏やかで優しそうな人だった。子供たちもとてもなついているようだ。


「元気そうなお子さんですね」


「いえ、アユムくんはこの人の弟でわたしは義理の姉なんですけど」


「それはいいから。でも、たぶん元気に見えるのはから元気なんだと思います」


 から元気。思えば初めてアユムくんに会ったとき、アユムくんは普通の子供を演じていたのかもしれない。いまの元気は、知らない人の前にいるからではないだろうか、とススムは言う。


「周りに気を使いすぎるタイプなんです、アユムは」


「そういうお子さん、よくいます。ここは勉強だけでなく動物に触ったり、動物を世話したり、動物と仲良くなることで人間とも付き合いやすくなる……というのを目指しています」


 なるほど。

 帰って会議をすることになった。

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