婚約者に魔物みたいに醜いと蔑まれたので、魔王になって見返したいと思います〜魔王様は可愛い従者を溺愛して離さない〜

飛鷹

第1話 婚約破棄されました

「レイル、貴様との婚約を本日をもって破棄する!」


突然ナットライム殿下の声が貴族学院のロビーに朗々と響き渡った。

名前を呼ばれた僕は声の主を探すべく視線を巡らせる。ロビーにある二手に分かれた重厚なカーブ階段の上、建物の二階部分にあたる場所に彼はいた。手すりに両手を乗せ、尊大な態度でこちらを見下ろしている。


―ーーー『馬鹿と煙は高いところへ上る』


王子殿下に対して不謹慎だけど、そんな言葉が頭をよぎる。僕は洩れそうになる笑いを何とか堪えて、殿下を見上げた。


ここは、アステール王国にある貴族学院。貴族籍にある12歳から18歳までの令息令嬢が必ず入学する格式高い全寮制の学び舎だ。

いつもは落ち着いた雰囲気の学院も、明日から長期休暇に入るとあって普段は人通りの少ないロビーにも人が溢れ、皆の高揚した気分そのままの賑々しい場となっていた。


たけど殿下の声が響くや否や、周りの人たちは一斉に口を噤み、ぴたりと動きを止めてしまった。

そして皆、息を潜めるようにしながら此方を注視する。

さっき迄の賑やかさとは打って変わった静寂に声を出すこともはばかられて、僕は返事を控え僅かに首を傾げるに留めた。


「そもそも貴様のような『成り損ない』が私の婚約者になること自体がおかしいのだ!その薄気味悪い白い髪も、灰色の瞳も、もうウンザリだ!さっさと荷をまとめて王宮から出ていくがよい!!」


汚物を見るような目で見下される。


ーーまぁ、殿下のこの目付きはいつもの事だから、別にいいのですが……。


殿下と婚約を結び王宮の片隅で暮らしていた僕には、『出ていけ』と言われてしまうと行くところがない。

僕が『成り損ない』と分かると、生家からは直ぐに追い出されてしまっていたし……。

このままだと路頭に迷っちゃうな。どうしようかな、と考えていると、殿下の吐き捨てるような言葉が聞こえた。


「魔族のように醜い……、いや、それ以上の醜さ。この国は人間に成り損なった貴様には分不相応だ。さっさと魔界へでも下ればいい!」


その蔑む言葉に僕ははっ!と思い付き、片手の掌に拳をぽんと打ち付けた。


「殿下、その案、いいですね!僕、魔界に行ってみます!」


何処に行こうかと悩んでいた僕は、行く宛ができて嬉しくなり、にこにこ満面の笑みを浮かべた。

僕の言葉で「は?」と間抜けた顔になった殿下に、感謝の気持ちを籠めてぺこりと頭を下げる。


「長らくお世話になりました」


ふと、もう殿下の婚約者じゃなくなったんなら、好きに生きていいよね?との思いに至る。せっかく魔界に行くのなら、魔界での最高峰の地位を目指してみるのも良いんじゃないかな?


魔界で一番偉い人になれたら、いつも僕を見下していた殿下の鼻を明かす事ができるだろうし、それはとても楽しそう!

突然思いついた事だけど、とっても良い案に思えてきた。


「学院や殿下から受けた教えを無駄にしないために、僕、魔界に下りて魔王を目指してみます!」


そうだ、そうだ、そうしましょう。

魔族の王様は血筋での継承ではないと聞くし、僕にもチャンスがあるかも知れない。


ーー普段はお馬鹿な殿下も、たまには良いことを言いますね!


今後の人生の道筋を見付ける事ができた僕は、唖然とした表情で此方を見つめる生徒達の脇をすり抜け、荷物を纏めるためにウキウキした気持ちで自分の部屋に戻るのだった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る