第40話
わからなくて頭の中は真っ白に染まる。
結局なにもかもが無駄だったのかもしれない。
1年前の出来事だって、解決には至らなかった。
ただただ、自分の前から大切な仲間が消えていくだけ。
絶望感に体がズッシリと重たくなっていく。
雨音に毅の足音はかき消されて、もう聞こえることもない。
もういい。
もうやめよう。
どうせ逃れることができないなら、いっそこのまま……。
すべてを諦めかけた瞬間、結の横を誰かが大股で通り過ぎていった。
それが大河だと気がつくまでに少し時間が必要だった。
大河の服は血に濡れていて、それでもしっかりと毅を追いかけていく。
「大河、どうして!?」
声をかけると、立ち止まったのは毅の方だった。
目の前に立つ大河に驚愕の表情を浮かべる。
「お前、死んだんじゃ……!」
ガツンッと鈍い音がして毅が途中で言葉を途切れさせた。
そのまま横倒しに倒れていく。
大河の手には大きな石が握りしめられていて、それには毅の血がついている。
頭部を殴られた毅は倒れ込んだまま身動きひとつしない。
唖然としてる結へ大河が振り向いた。
「死んでる。写真を撮って送り返すんだ」
そういう大河は微笑んでいた……。
☆☆☆
死んだはずの大河が生きていた。
結は呼吸をすることも忘れて目の前の光景を凝視していた。
倒れている毅。
石を握りしめて微笑んでいる大河。
「大河……どうしてここに?」
大河は毅に殺されたはずだ。
そうじゃなくても、死体写真が送られてきたから24時間は経過している。
それなのに、なぜ……?
「俺も驚いたよ。頭を岩に打ち付けて気絶して、でも途中で目が覚めたんだから。時間を見ると24時間は経過しているし、毅も生きてる。これって、どういうことだと思う?」
すべてを見透かしたように笑みを浮かべたまま質問してくる大河に結は左右に首をふった。
どういうことなのかわけがわからない。
毅に送られてきたメールに返信ができた時点で、大河は死んでいたはずだ。
「もしかして、途中で息を吹き返したの?」
そうとしか考えられなかった。
大河は1度死んで、だけど息を吹き返して自分たちを追いかけてきたのだ。
だけど大河は左右に首を振った。
そして自分のスマホを見せる。
そこには『ターゲット死亡により、呪い解除』と表示されている。
それは始めて見るもので結は口をポカンと開けて呆然としてしまう。
「ここに書かれているのは、俺が気絶したときに送られてきたメールだ」
「だけど、大河は死んでなかったんだよね? それなのに、どうしてそんなメールが送られてくるの?」
「俺が気絶している間に、毅はなにをした?」
そう聞かれて結は倒れている毅へ視線を向けた。
血は今も流れ続けていて、毅の顔は青ざめていく。
半開きになった目は白目をむいていた。
「毅が大河の写真を撮って、メールを送り返した」
「そう! それでこのメールの主は俺が死んだと判断して、呪いを解除したんだ!」
「どういうこと? 実際には死んでなかったのに、呪いが解除されるの?」
わけがわからない。
頭の中は混乱して思考が全く追いついていない。
「毅は俺の気絶している写真を送って自分自身の呪いを解いた。つまり、最初から死んだフリをした写真で助かることができる呪いだったってことなんだよ。同時に呪いにかかっていた俺も死んだことになって、呪いが消えたんだ」
え……?
「結たちは1年前にこの呪いから助かる方法を知った。だけどその情報が間違ってたんだ。本物の死体を作る必要なんてなかったんだよ!」
嘘でしょ。
じゃあ、私たちが今までしてきたことは……?
「1年前、試しに死んだフリをしてメールを送り返したことは?」
そう聞かれて結は小さく首を振った。
死んだフリなんて、したことがない。
そんなことをすれば呪いの相手を怒らせてしまうと思い込んでいた。
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