第36話
哲也と毅のふたりは小学校からの腐れ縁で、特に話をしたわけでもないのに同じ高校に入学した。
さすがに入学式のときバッタリ顔を合わせたふたりは驚いたけれど、家から通える自分たちの偏差値の高校はここくらいだと気がついて、おかしくなった。
「なぁ、タバコねぇ?」
ふたりで授業をさぼって駅の近くにある廃墟に向かう。
そこに食べ物やタバコや酒を持ち込んで時間をつぶすのが好きだった。
この廃墟は学校から丁度いい場所にあって他の生徒たちと鉢合わせをすることも多かったが、だいたいふたりの姿を見たら逃げていく連中ばかりだった。
「あれぇ? 先客?」
その日もいつもと同じように学校をサボってその廃墟にいた。
もう何度も足を運んできている場所なので、布団などを持ち込んでかなり快適な空間が出来上がっている。
その布団の上にあぐらをかいて漫画を読んでいたときのことだった。
突然ドアを開けて入ってきたのは3人組の男子生徒で、隣町の制服を着ている。
「わざわざ隣町からなんの用事だよ?」
聞きながら哲也は立ち上がる。
毅も同じように立ち上がった。
すでににらみ合いは始まっていて、今にも拳が繰り出されそうな雰囲気だ。
「暇つぶしだよ。なぁ、今日は俺たちにこの場所譲ってくれねぇ?」
そう言った金髪男の後ろに背の小さな女子生徒がひとりいることに気がついた。
黒髪は肩まで伸びていて、クリッとした大きな目をした可愛い子だ。
その顔は青ざめていて目には涙が浮かんでいる。
とてもこいつらの仲間だとは思えなかった。
「なぁ? わかるだろ? 俺たちこれからお楽しみなんだよ」
赤い髪の毛をツンツンに立てた音がニヤついた笑みを浮かべる。
哲也と毅は同時に目を見交わせる。
なるほどそういうことか。
地元じゃすぐにバレるから、わざわざこんなところまで無理やり女を連れてきたってことか。
納得すると同時に哲也はバキバキと指を鳴らしていて。
普段なら女を助けたりはしない。
そんなの自分には関係ないことだからだ。
なんだったら弱い人間をイジメて金を奪い取ることもある。
だけど今回は事情が違った。
自分たちの縄張りに勝手に入り込んできて、そこで好き勝手しようというのだ。
黙って場所をあける気はなかった。
「残念だったな。悪いけどどっか別の場所を探してくれよ」
言うことなんてきかないと知りながら一旦は言葉で頼んでみる。
案の定哲也の言葉に素直に従う連中ではなかった。
赤髪の男が声をあげて笑ったかと思うと拳を突き出してきた。
毅はそれをよけて身を低くし、右拳を突き出す。
それは赤髪の男の腹部にめり込んだ。
赤髪が「ぐふっ」と低く唸って身を捩る。
しかし倒れはしなかった。
さすがに喧嘩慣れしているようで両足に力を込めて立ち、哲也を睨みつけている。
「くそが!」
金髪が毅へ向けて殴りかかる。
毅はよけることなく、同じように拳を突き出した。
互いの頬に鉄拳がめり込む。
金髪がよろめき、そのまま後方に尻もちをついた。
口の端からは血が流れ、毅のパンチの強さを物語っている。
その乱闘の中、どさくさに紛れて女子生徒が逃げ出した。
それは男たちの怒りに油をそそぐ結果となり、大乱闘が起こったのだった。
結果的に、哲也と毅のふたりは勝った。
といっても逃げ出した女子生徒が警察に駆け込んですべて説明してくれたため、おとがめがなかったという感じだけれど。
「たまにはいいな」
運ばれてきた病院で手当をしてもらいながら哲也は言った。
毅はしかめっ面でそれを見る。
さっきから消毒液がやけにしみるのはきっと、看護師がわざとやっているからだ。
男性看護師は「喧嘩はやめなよぉ。僕たちの仕事が増えるんだから」と、殺気だった雰囲気をまとわせて微笑んでいる。
「けど、女子生徒は助けた」
哲也が自慢気に言う。
それを言われると看護師の方もなにも言い返せない。
もしやと感じて哲也を見ると、その頬に怪我ではない赤見が差しているのがわかった。
「な、たまにはいいな」
哲也はまた同じことを言って笑う。
どうせ相手にされない恋をした哲也は、とても楽しそうだった。
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