第28話
☆☆☆
食事を終えたとき、大河が立ち上がって残っている面々を見回した。
「ひとつ、はっきりさせておきたことがあるんだ」
大河の発言になんとなくみんなが私語をやめる。
お皿を洗っていた結も手を止めて自分の席に戻った。
それを確認してから再び大河は口を開く。
「毅と哲也」
名前を呼ばれたふたりが大河へ視線を向ける。
その動向はどこか怠慢だ。
「なんだよ」
毅が低く、うなるように訊ねる。
大河の様子からしてあまりよくない話しだと感づいている様子だ。
しかし大河は躊躇することなく、思っていたことを口にする。
「静が死んだとき、ふたりともどこにいた?」
「寝てたに決まってんだろ。真夜中だぞ?」
即答したのは哲也だった。
静は朝起きたときにはすでに死んでいた。
だけど今の哲也の返答には疑問を抱いて、結は首をかしげる。
「それって何時頃?」
重ねて質問する大河に哲也は「だから! 夜中の2時……」と、答えそうになって途中で気がついたように目を見開く。
唖然とした空気が場を支配していた。
静の死体は朝方発見された。
だけど何時頃死んだのかは、誰もわかっていないはずだ。
「どうして夜中の2時だってわかったの?」
結が震える声で聞く。
その質問にはもう誰も答えられなかった。
哲也は気まずそうにうつむき、毅は知らん顔を決め込んでいる。
「ふたりで静を殺したんだな?」
大河は質問しながらも確信を持っているようだ。
「あの日、夜中に誰かが廊下を歩く足音を聞いたんだ。誰だろうと思ったとき、隣の部屋で足音が止まった。それから今度は複数人の足音が聞こえてきた。階段を昇っていっているみたいだった。もしかして静がふたりの部屋を訊ねて、3人で屋上へ出たんじゃないか。そこで静は突き落とされたんじゃないかって考えた」
一気にいい終えて大河は息を吐き出す。
「静が死んだのはメールのせいじゃなかったってこと!?」
明日香が愕然とした声を漏らす。
「結局死ぬ運命だったんだ。それでも俺たちが殺したことになるのかよ!」
哲也が開き直って叫ぶ。
もうとりつくろうつもりはないみたいだ。
「でも、どうして静はお前たちの部屋に行ったんだ? なにか理由があったんだろ?」
大河の質問に哲也はチッと小さく舌打ちをして黙り込む。
まだなにか隠していることがありそうだ。
しかしそれを話す気はないようで、哲也は大河から視線をはずした。
「まぁいい。どうせ静から助けてほしいとか、なんとか言われて面倒になって殺したんだろ」
そう結論づけても反論がない。
大方当たっているんだろう。
結はやるせない気分になって言葉を失う。
どうせ死ぬ運命だったとしても、仲間を殺したことには間違いないんだ。
「美幸が部屋から出てこないことも、お前たちと関係あるのか?」
「それは知らねぇよ!」
哲也がガバッと顔を起こして否定する。
その目は鋭く、嘘をついているようには見えない。
大河もそう考えたようで小さく頷いた。
「わかった。みんな、空気を重たくして悪かった」
大河は笑みを浮かべてそう言ったのだった。
☆☆☆
夕食の片付けを終えた結は大河と共に美幸の部屋へ来ていた。
ノックをしても、声をかけてみても中から返事はない。
結はドアに耳をピッタリとくっつけて中の様子を確認してみたけれど、少しの物音も聞こえてこなかった。
まるで気配がないのだ。
「部屋にはいないのかも」
ドアから身を離して言うと、大河は頷く。
「だけど、美幸にメールは届いてなかったよな? どこかに行く理由はないと思うけど……」
1人で外へ出るほうが今は危険だ。
だとしたら、やはり毅と哲也がなにかしたのではないかと疑ってしまう。
「とにかく、今日はもう遅い。結もあのふたりには近づかないように気をつけて」
大河の言葉に結は小さく頷いたのだった。
昼間十分に眠った結だけれど、布団に入るとまた深い眠りに引き込まれた。
この非日常敵な空間にいる限り、体と心の疲れはそう簡単には取れないみたいだ。
次に結が目を覚ましたのは1階から甲高い悲鳴が聞こえてきたときだった。
キャアア!!
と、ドア越しにくぐもった悲鳴が聞こえてきて目を開ける。
部屋の中を見回していると明日香の姿がないことに気がついて飛び起きた。
今の悲鳴は明日香のもので間違いないという確信を持ち、慌てて部屋を飛び出した。
廊下を走っていると豊と合流した。
「今の声って明日香?」
聞くと豊は青ざめた顔で頷いた。
豊を先頭にして階段を駆け下り、悲鳴がした方へ走る。
そこには教室の前で立ち尽くしている明日香の姿があった。
「明日香、どうした!?」
駆け寄る豊に視線を向けることなく、明日香は開かれたドアへ指をさす。
そちらへ視線を向けてみると教室の中央に誰かが倒れているのがわかった。
長く、ウェーブのかかった髪の毛が顔を隠していて、血溜まりができている。
その隣にはスマホが落ちていた。
「美幸!?」
結は咄嗟に叫んで駆け寄っていた。
しかし近づいただけですでに息をしていないことがわかり、足を止める。
美幸の隣に落ちているスマホに視線を向けると、画面が明るく光っていた。
「嘘でしょ。メールが送られてきてる!」
画面上には今の美幸と同じように倒れて、手首から血を那がしている死体写真が表示されていたのだ。
結はふらふらと後ずさりをしてその場に尻もちをついてしまった。
「メールが来てたのに、どうして誰にも言ってないんだ?」
呟いたのは少し遅れて到着した大河だった。
教室内の残状を見て顔をしかめている。
「いや、相談したのかもしれない。だけど裏切られたんだ。静のときみたいに」
豊が静かな声で呟く。
その視線は廊下に立つ毅と哲也のふたりへ向けられていた。
他のメンバーたちも疑いの視線をふたりへ向ける。
静を殺したという前科があるふたりへの疑念はあっという間に膨らんでいく。
「美幸の部屋に鍵をかけたのは、死体発見を遅らせるためだな」
「はあ? お前何言ってんだよ」
大河の言葉に哲也が顔を赤くして大股で近づいてくる。
しかし大河は動じずにジッと睨みつけた。
「さすがにお前たちのことはもう信用できない。ふたりにも写真が送られてきたけれど、それも回避されてるしな」
「だったらなんだよ! お前は自分が死ぬかもってときに他人を助けるのか!?」
胸ぐらを掴まれた大河は苦しさに顔をしかめるけれど、まっすぐに哲也を見返した。
「それはわからない。だって、俺にはまだ……」
メールが送られてきていないから。
そう続けようとしたときだった。
「キャア!?」
突然明日香が悲鳴を上げて大河は言葉を切った。
哲也も手の力を緩めて明日香へ視線を向ける。
明日香はポケットからスマホを取り出して青ざめ、小刻みに震えている。
悪い予感が結の脳裏をよぎる。
豊が慌てて明日香のスマホ画面を確認すると「嘘だろ、今度は明日香に届いた!」と、叫んだのだ。
さっきの嫌な予感が的中して結は呼吸をすることも忘れてしまう。
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