第3話
「キャアアア!!」
甲高い悲鳴を上げて飛び退いたのは由香里だ。
由香里は後ろの壁に背中をぶつけてそのまま座り込んでしまった。
両手を胸の前で握りしめてガタガタと震えている。
死体写真……!!
結は自分の呼吸が短く、浅くなっていることに気がついた。
どんどん気分が悪くなってきて、倒れそうになってしまう。
どうして?
悪夢は1年前に終わったんじゃなかったの?
結たちがあのとき発見したのは死ぬことを回避する方法で、それは完全に呪いを解く方法ではなかった。
そもそも、そんなものが存在しているのかどうかも怪しい。
「たちの悪いイタズラだ。気にせず、順番に風呂に行きなさい」
先生は美幸の手からスマホを奪い返すとそのまま食堂を出ていってしまったのだった。
☆☆☆
結は食堂から出た先生を追いかけて声をかけていた。
廊下の隅に立ち止まりさきほどのメールを見せてもらう。
先生も相手が普段は真面目で成績もいい結相手だったことで、快く見せてくれた。
「これ、いつ届いたんですか?」
青い顔をしながらも質問する。
「ついさっきだ。本当に誰のイタズラだろうな」
先生は怒った顔をしているけれど、スマホの電波は圏外になるためこんなイタズラはできないと理解しているはずだった。
だから、生徒たちの前でもあからさまに顔に出てしまったのだ。
「先生、このメールは呪いのメールです」
「呪い?」
結から出た呪いという言葉に先生は眉をあげて顔をしかめた。
突然呪いだのなんだのと言われても、信じてもらえないことはわかっていた。
「去年、裕之が死んだのはこのメールのせいなんです」
「高橋のことか……」
渋面を作り、腕組みをする。
「そうです。裕之にはそれと同じメールが届いていていました」
自分にも届いた死体写真。
それを思い出すと今でも息が詰まる。
自分の死に顔を生きている間に見るなんて、ショックが大きすぎる。
「高橋が死んだのは悲しいことだったろう。だけど、今回のメールとはなんの関係もないことだ」
「そんなことない! 先生、真面目に私の話を聞いてください!」
結は先生の腕にすがりつく。
しかし、先生は左右に首をふるとスマホをポケットに戻した。
「今は勉強のことだけ考えなさい。今年は受験なんだぞ」
「先生!」
その後結がどれだけ呼び止めても、先生は立ち止まってくれなかったのだった。
☆☆☆
明日香と加奈子との3人部屋に戻っても結は落ち着かない気分だった。
3人で川の字になり、布団に横になる。
電気を消して目を閉じていても眠気は一向に訪れない。
結の右隣からは明日香の規則正しい寝息が聞こえてくるし、左隣の由香里もすでに寝入ってしまったみたいだ。
みんな夕飯時の騒ぎのことは気になっていた様子だけれど、結ほど気にかけている生徒は1人もいない。
みんなにはちゃんと説明してないからだ……。
結の恋人だった裕之の死は、ただの自殺として処理されていた。
どれだけ結が説明したところで、死体写真の呪いなんて誰も信じてくれないからだ。
それが今に仇となってしまった。
死体写真が届いてから死ぬまでの猶予は24時間。
その間に写真と同じ死体を作って写真を取り、アドレスへ送り返す。
そうしないと、メールが届いた人間は死んでしまう。
誰か、この事実を信じてくれる人はいないだろうか?
10人の生徒の顔を脳裏に思い浮かべてみる。
美幸と静はダメだ。
笑い飛ばして終わるに決まっている。
同様の理由で毅と哲也にも相談はできない。
結は薄めを空けて右隣で眠っている明日香を見つめる。
明日香はこの10人の中では一番話しやすい相手。
だけど信じてくれるかどうかは別だった。
左隣りで眠っている由香里はクラス内でイジメられていて、結からの相談も真摯に受け止めてくれるかどうかわからない。
それで言えば匠も立場は由香里と同じだった。
クラス内では孤立ぎみで、ほとんど声を聞いたこともない。
成績もいいのか悪いのかわからない、地味な生徒だから今日林間学校に参加していることに驚いたくらいだ。
明日香の恋人である豊は真面目な生徒で、話くらいは聞いてくれそうだ。
だけど、明日香同様に信じてくれるかどうかは別問題になる。
結は布団の中で大きくため息を吐き出した。
一体誰に相談すればいいのか検討もつかない。
残るは大河だけ。
大河はきっと真剣に結の話を聞いてくれるだろう。
ここへ来るまでにも結のことを気にかけて話かけてくれていたし、他のメンバーよりはちゃんと聞いてくれそうだ。
相談をするなら、大河か……。
そう考えたときだった。
不意に外の風が強くなってきたことに気がついて、結は目を空けた。
常夜灯がついた薄暗い部屋の中、カーテンの向こうへ視線を向ける。
何度から強い風が吹き付けてきて、窓がガタガタと揺れている。
ここへ来てから天気予報などのチェックができていないし、山の中の天候は変わりやすいということを思い出した。
しばらく外の様子を気にしていると、今度は窓に叩きつけるようなバチバチという音が聞こえてきた。
大粒の雨が振り始めたみたいだ。
先生に死体写真が送られてきた直後にこんな天気になるなんて……。
バチバチと激しく振り付ける雨の音を聞いて、結は布団を頭までかぶってキツク目を閉じたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます