1章から4章外伝第5話

 俺は、踊って歌っている彼女を後ほど俺に会わせるようにダースに命じる。


「あの女でよろしいのですか?」


「お前もあの女は可愛いと思うだろ?」


「それは思いますが、ワンダラー皇太子殿下のお側にいるような者ではないと思います」


「細かい奴だな。俺がいいと言ったらいいんだ」


「かしこまりました。準備が出来次第お連れします」


 この時のナナも俺の話を聞いて驚いていたが、芸人のネタを見て大笑いしていたナナはそんなことはさっさと忘れてしまっていた。


 そして宴会は終了し今夜は玉座の後ろのベッドで寝ることにした。


 ナナは既に宴会の疲れで寝てしまったが、俺はまだ黄金の玉座に座っていた。例の彼女と会話するためである。


 ダースが例のダンサーである彼女を連れてきた。


「ワンダラー皇太子殿下、お連れしました」


「ご苦労だ。さがれ」


「かしこまりました」


 彼女はすぐさま俺にひざまずいた。


「皇太子陛下に拝謁します。私のようなものに何か御用でしょうか?」


「俺はお前を気に入った。今後は俺の屋敷に住め」


「なんと、私のような田舎娘を皇太子殿下の屋敷にですか?」


「ああ、お前のその格好が気に入っている。美しいものだな」


「美しいなど。あまり人前で肌をさらすのが嫌なだけです。ですから露出を控えめにしているのです。ですがこんな姿で踊るのもはずかしいのです」


「誰だってそうだ。だが舞姫はそんなことを分かっていながらも誇りに思って踊るもんだろ? 恥ずかしいなら何故踊る?」


「私……家が貧乏で、母が病気で……どうしてもお金が必要で」


 ここからは彼女の暗い話だった。俺の民は俺の施しで貧乏などいないが彼女は違う。施しなどなく、母が病気でお金を貯めないといけなくて体を売っている。人前に肌をさらすことで。


 昔から歌う事と踊る事が好きだったこともあって今日のような歌と踊りを披露したそうだ。


 民もナナもダースも認めないものではあったが、俺は違う。特に彼女の話を聞いたらなおのことだ。


「苦労しているんだな。名前は何だ」


「私、ダイアと申します」


「いい名前だ。ダイア。俺がお前の面倒見てやる。だから俺の屋敷で住み込みで働いてくれればいい。もちろんダンサーとして」


「私で良ければ。これで母に仕送りが出来ます」


 ダイアが涙を流して喜んだことは無理もない。俺はダイアに残りの酒を飲ませる。


「どうだ、飲んだことないだろ?」


「はい、おいしいです。ワインは生まれて初めて飲みました」


「お返しは明日の歌とダンスを披露してくれればいい。俺の部下共にダイアの歌とダンスを見せつける」


 ダイアは初めてのお酒にすぐに酔ってしまい、俺はダイアと一緒に自分のベッドのところへ行く。すでに隣のベッドでナナは寝ていた。


「俺らも寝よう」


「あの……私も一緒に寝てよろしいのですか?」


「ああ、そうか。まだ早いな」


 俺はダースを呼んでダイアを丁重に寝る場所へ案内するよう命令を下した。


 俺は今日楽しい思いをした。こういう日々がずっと続いてほしいと思った。


 次の日、俺のベッドで目を覚ました俺は、宴会の玉座で朝食を食べる。


 朝食は17歳くらいの女の子の民が用意してくれた。ナナも遅く起きて朝食を食べる。


 民達は片付けをしていた。民の中には昨日のダンサーもいたが何故かダイアの姿が見当たらない。俺はきょろきょろとダイアを探しているのでおばさんである民の1人が声をかける。


「あの、皇太子殿下。いかがなされました?」


「ああ、あの昨日の歌とダンスの女は見なかったか?」


「知りません。あの女がどうかしたのですか?」


「いや、何でもない」


「田舎臭い小娘です。関わらないほうがよろしいですよ」


 おばさんの民はそう言って去っていく。探しても見つからない。結局俺はダイアのことは諦めて帰るしかない。


 そんな気持ちになっている時にダースが黄金の玉座と赤い玉座の前に馬車を用意した。


「ワンダラー皇太子殿下、馬車を用意しました」


「ご苦労だったな」


「元気がありませんな」


「ああ……」


「分かります。あの女のことですな」


「なっ……何言ってる!」


「ご安心ください。既に馬車に乗せております」


「はあ⁉」


 ダースが馬車の扉を開くとダイアが乗っていた。


「どうして……」


「ワンダラー皇太子陛下がこの者を気に入っていたようでして、丁重に扱い馬車に乗せて待っていたのです」


「そう……だったのか」


 これには駆けつけたナナが動揺する。


「なんと! そんな女を馬車に乗せるというのですか⁉」


「ああ、お前も乗ればいい」


「むむむ~、たかが田舎娘~!」


 何か嫉妬しているように見えるナナだったが、俺とナナは馬車に乗った。


 ナナはとにかくダイアを睨みつける。


 ダイアはナナに怯えながら聞く。


「あの~どういたしました?」


「あんた……よく見たらかわいいじゃないの!」


「ありがとうございます」


「褒めてないんだから! いい! あんたは私よりも格下なんだから。ワンダラー皇太子に好まれるだけ良しと思いなさいよね!」


 こういうナナの素が見れることも楽しみの1つとなったと思う。

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