1章第5話 運命の王子が目指す事

 ストーム王子はテンション爆上がりでウィングの家に帰るが、ウィングは怒る。


「貴様、どこまで調子に乗ったら!」


「親父、どうしたんだいきなり?」


「貴様は口も悪いな。ジャイアントバッドの群れを相手にするなど下手したら死ぬぞ!」


「死ななければいいだけのこと。俺は逃げるのは得意だ」


「それを大馬鹿というんだ!」


 ストーム王子はウィングと喧嘩してそれから何十日も一切口を聞かなかった。


 バードもそんな息子であるストーム王子を心配して温泉に誘う。


「ストーム、そろそろ父上と仲直りを。落ち着かないなら温泉にでも」


「仲直り? そんなこと出来るはずない。俺は俺の自由にやるぜ」


「そんなことをして。私もストームに無謀な戦いで命を落としてほしくありません」


「母上……」


「どうか父上の思いを分かってくだされ」


「母上がそこまで言うなら……」


 ストーム王子は母親の言葉には弱かった。ストーム王子はバードと温泉に行って落ち着くと、結局観念してウィングに謝る。


 ウィングは自らの権力の強さを誇示せずストーム王子を説教する。


「いいかストームよ。お前の命はお前だけのものではない。そしてこれからお前は叔父と対立することになる」


「叔父とは?」


「次期皇帝で俺の兄となる者だ」


 ストーム王子の叔父で次期皇帝は、とんでもない暗愚らしい。それでも兄であることから帝国のしきたりで皇帝に即位することが決められた。


 そのため、即位反対の声が上がっても反対できない。


 ただでさえ世界が乱れていて大変なのに暗愚の皇帝ともなれば世界は終わり。


 そんな予想をウィングは思っていた。


 だからこそ、彼はそんな兄を討伐出来るような立派な勇者になるようにストーム王子を育てていた。


「皇帝に歯向かえば逆賊だぞ。未来はない」


「あの兄に皇帝になったらそれこそ未来はない。奴は魔王だ。勇者は魔王を討伐する者だからな。勇者の血を引くお前なら兄を倒せる」


 ここまで期待されてストーム王子も折れるしかなかった。しかし完全に納得していなかった。


 そして月日が流れた時、大事件が起きる。


 新たな温泉を探そうと部下と一緒に行動しているウィングが何者かに襲撃されたのだ。


 襲撃の実行犯は分からなかったが明らかにウィングを狙っての事だ。


 ウィングは駆けつけた部下に救出され手当てを受けるも温泉に入れるほどの気力がなくなっており立ち上がれる状態ではなかった。


 これにストーム王子が駆けつけウィングに叫び続ける。バードは隣で泣きながらストーム王子に説明する。


「あなたの父上は何者かに……これでは……もう」


 ストーム王子は諦めずにウィングに叫び続けた。


「親父、こんな時に死ぬな! 次期皇帝の叔父にやられたのかよ。そいつなら俺は許せねえ!」


 ここでウィングが口を開く。


「今は動く時じゃない」


「何でだよ親父⁉」


「今は力を蓄える時だ。今のままでは兄に勝てない」


「じゃあ俺はどうしたら!」


「しっかり強くなって、学びを怠るな……げほ……げほ」


 ウィングは血を吐いてそれをストーム王子が支える。


「分かったよ親父。もうしゃべるな」


「まだ心配だ。お前には母の後見が必要だ」


「親父……」


「バード、ストームを頼むぞ。立派な勇者に育てて、皇帝を倒すんだ」


「はい……」


 泣きながらバードは返事をした。


 こうしてウィングはバードにストーム王子を託して亡くなった。


 バードはストーム王子を中心としたスプリング王家の体勢を作り上げると同時に、これを好機と見た闇組織の粛正を行った。


 また、ストーム王子は仲良くしてきたタイフーンをはじめとした一緒に遊んでいた子を許すようバードに働きかけたことで、その者達全員がストーム王子に正式に仕えることが出来た。


 また、この頃からストーム王子は学問に剣術の稽古などを毎日行うようになった。


 それを行っていくたびにストーム王子は偉大な父親であるウィングのすごさを知った。


 ストーム王子はバードの補佐などを受けながら10歳で様々な温泉を見つけた。


 これによりスプリング王国は世界一の温泉大国となった。


 これを収入源として豊かな国づくりを行っていったのだ。


 そんなストーム王子をタイフーンは評価する。2人は温泉でくつろぎながら会話していた。


「素晴らしいです。ここまで豊かな国を作るとは」


「まだだ、強くならないと。次期皇帝がここを襲ってくるかもしれない。そうなれば全てが水の泡。親父が目指した夢を果たせない」


「さすがはストーム様です」


 ストーム王子は頭の中で『親父、どうか俺を見守っていてくれ』と祈った。


 そんなストーム王子とこの私、レーモンが運命の出会いを果たして帝国と戦い続けることになるとは10歳の時の私は考えてもいなかった。


 そんな私は今、ドラム缶風呂に入っていた。魔物を倒して稼いだ金のほとんどを高価な本を買うためのお金として、その本の内容を調べていくうちに入浴剤の開発に成功。


 私は檸檬の入浴剤をドラム缶風呂に入れて檸檬風呂を楽しむ。


 最高だと思った。入浴剤で美容を目指そうと思い、次はシャンプーとリンスに石鹸を作って体が真っ白になるように綺麗にしようと思っていた。


 10歳のストーム王子は国のために頑張っているが、10歳の私はお姫様ではなくドラム缶風呂を楽しむ無能な農民に過ぎないのだった。

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