第9話 託された者①

 ◇◆◇◆◇◆◇◆


 観客の方も筋肉魔法を知っている人がいて、かなり物珍しそうに見る。ニィナが訪ねた人も知っていたようで、声を漏らしていた。


「筋肉魔法使えんのか。あいつ」

「あの〜、き、筋肉、魔法ってぇなんですか?」


 ニィナには変な名前に抵抗があったようだ。


「お?知らないのか?術式を使わない魔法の一つに分類されている魔法だよ」

「へぇー」

「筋肉魔法は体にある魔力を筋肉に集めちまうんだ。それによって筋肉が異様に肥大化してみえる。身体強化の一環だ」

「でも、私知りませんよ。こんなの」


 ニィナはついに筋肉魔法と呼ばなくなった。


「あぁ、それは単純に術式を使う身体強化魔法があるからだ。筋肉魔法使うよかそっちの方が何倍もマシ。見てみろ。身体能力自体は上がっているが動体視力は上がってないから頭ぶんぶんなって振り回されているし、関節とかが制限されて動きが悪くなってる」

「ぶんぶん」


 実際に見てみると、動きに差がありすぎる。部分部分の動きは逆に良くなっているのに対し、動きの繋ぎが粗い。筋肉魔法もその一因になっているが、他に原因がありそうだ。


「う〜ん、振りが大きくなってきたな」


 ◇◆◇◆◇◆◇◆


(奥の手がこの程度、しかも、慣れていない)とサダバクは受け流しながら考えていた。正直、さっきまでの戦いの方がやりがいがあっただろう。

 サダバクはいつ戦いを終わらせるかと思考を張り巡らせていた。

 そして、顔を狙った大振り。


「ハァ!」


 ―――が、曲がった。


「うぉ!」


 特殊な技。いや、ただ脇をしめただけだった。

 サダバクは満面の笑みを浮かべ、左にユウヤの攻撃を避けた。ユウヤは近づいた隙にと飛び膝蹴りを繰り出した。


「喰’’らえっ!」

「甘〜い!」

「うぇ!」


 サダバクは顔に向かってきた膝を掴んで膝を落としながら片手で投げ飛ばす。ユウヤは体勢を崩しながらも手をついて前転、横に倒れそうになるほどの姿勢で着地し左手をついて軸にしながら、走り出した。


(後、五回か?)

「…………お前、前衛の真似事やめたらぁ?向いてないよ。全然」

「はは。………!」


 ユウヤが短剣をサダバクに向かって投げた。そして、目をあわせた。サダバクは硬直していたが、今意識を取り戻したかのように短剣を払った。

 猛突進で蹴りを仕掛ける。

 サダバクは前のめりの姿勢になりながら、ユウヤの蹴りを受け流した。着地する時にかかとからつま先に体重を移しながら後ろ回し蹴り。サダバクは両腕で後ろ回し蹴りを防ぐが、ガードが外れて砂埃がまった。


(なんだ?精神支配の魔法?いや、魔力の起こりから違った。アビリティか!しかも、魔術系統っぽい。それに動きがまた変わった!)

「おもしれぇ!!次は何を見せてくれる!?」

「…………うるせぇ!自己満野郎!」


 放たれたのは、隙を見せない連打。

(別の武術が入っていない徒手空拳!これを隠していたのか。恐らく、悪口が発動条件)アビリティを警戒しながらそんなことを考えていた。

 サダバクがユウヤの徒手空拳を見て、学習を始めた。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆


「学習した!?」


 戦闘が繰り広げられる中、グルミはサダバクの構えが変わった事に驚き、声を出した。クインの顔が曇りだす。


「あの学習ってぇ、なんですかね」

「う〜ん、俺解説係じゃないんだけど」

「ちょっとまってください」


 ニィナが悩む素振りをした後、冒険者に向かって言った。


「銀貨一枚前払いでいいですか?」

「えっ?ほ、本当にくれるんだったらいいよ。いや、教えてあげますよ」

「はい」


 ニィナが財布から銀貨一枚を取り出して渡した。


「おぉ!」

「で、教えてくれるんですよね」

「あぁ、学習っていうのは本当に単純に見て真似て自分流に変えてる事を言ってるんだ」

「魔法とかは関係ないんですか?」

「関係ない。自力。攻めの構えも守りの構えも学習した結果だ。それがさらに強くなっていく。あの変化だと構えが一つになってる?」


 先鋭化するために二つに分けられた、攻め、守り、ユウヤの構えが程よく混ざったかと思えば、技を撃つために、自分を守るために、どんどんと構えがかわっていく。それと同時にユウヤの筋肉が肥大化していくのが見えた。


「まずい!ユウヤが段階フェーズを上げた」

「え?フェーズ?えと、筋肉魔法にはそういうのもあるんですか?」

「そりゃあ、魔法と呼ばれてるからな。まぁ、他にも理由はあるがな」

「それで何がまずいんですか?今は動きについていけてるじゃないですか」

「あれ以上やると負荷が、まずいんだ」

「もしかして、魔力を筋肉に集めすぎて骨が脆くなるとか?」

「いや、脆くなる訳じゃない。体が耐えられなくなるんだよ。肥大化した筋肉で圧迫もされるし」

「それは………常用するものじゃないですね」


 クインが眉間にシワを寄せる。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆


 ユウヤとサダバクの勝負はハンデによって互角だった。今、ユウヤの実力は素人が言われる四流と卑下されるものではなく、三流下級ほどはあるだろう。今までのこじんまりとした戦いではなく、訓練所を広く使った戦いへと移った。

 間合いとタイミングを考え常に動きながら戦う。


(精神攻撃を考えて間合いを常に意識しなきゃいけないのはキツイな。というか、ユウヤの顔が何も考えてなさそうなのが怖い)


 ユウヤは淡々と精神攻撃を狙っていた。


「ふぅ!」


 ユウヤが拳を振るった。サダバクはその様子を見て立ち止まり、何かを手で払った。


「ただの魔力の弾………まだ隠していたのか」

「恩知らずの不幸野郎、絶対に俺が勝つ」

「無視、それに恩知らずか。………もっと、良い嘘をついてくれ。流石に傷つく」


 サダバクは精神攻撃をされても、攻撃を避けれるようにしながら攻撃出来る間合いにまで近づき、ユウヤの攻撃を全て避け腹に一発入れる。

 ふっ飛ばされるも嗚咽する素振りは見せず、短剣を拾い上げ戦闘を再開した。


(後、四発)

(動きの繋ぎが上手くなってきたか?それにしては弱くなった?)


 サダバクがわかりやすい大振りの右ストレートを放った。ユウヤは右に避けて目を合わせた後、蹴り足挟み殺しをしようとするが間に合わず、サダバクが横から殴った。


「ぐっうっ!」

(後、二発か?)


 ふっ飛ばされるとまではいかないが、かなりのダメージを負った。ユウヤは息を切らしながら、筋肉魔法を解除して構える。


「後、何分だ?」

「十分です」

「五分休め。流石に実力が違かった」

「はぁはぁ」


 ユウヤはその言葉に甘え休む。ハンデがあって強くなっても届かない。休んでもどんどん視界が暗くなってくる。息は整って来てるのにと小言を漏らした。わずかに手が震える。汗によって体の芯が冷えてきた。


「一発で決められるか?」


 心臓の鼓動が聞こえてくる。


「五分、経ったぞ」

「ぁぁ、もうか」


 ふぅ、と息を吐いてから突撃する。一気に筋肉魔法以外の手札を使って追い詰めたが、やはり身体能力が足りなかった。さらには、精神攻撃に慣れてきているように感じる。

 サダバクが短剣を拾い上げ、投げる。


「あだっ!」

「………」

「………」

「攻撃判定です」

「………最後だ」

「やってやらァ!」


 筋肉魔法をまた発動させる。この一発で全てが決まる。一気にサダバクに近づき、右腕と下半身に魔力を集中させた。その間に左肩の部分を殴られ、姿勢を崩すが知ったこっちゃない。

 そして、精神攻撃をする。


「ハッ、精神を魔法で守れないなんて言ってないぜェ」

「この魔法馬鹿が、だっ、たら!」


 精神攻撃の威力を一段階上げた。ブワッと砂が舞った。

(なん……!?)

 サダバクが何を見たのかは分からなかったが、ユウヤが短剣を掠らせるのと同時に喉に一撃入れた。

 血痕が地面やサダバクの傷口につく。


「? なんだこの血は。反射的に攻撃したが、手応えも喉だったはず。!?」


 ユウヤの方はというと、あの一撃のために肩は脱臼し皮膚が裂けていた。ユウヤが一人で苦しんでいる。ドロドロに溶けていく痛みで―――。恢復した、切り替わった、人に成った。

 砂が散ってどんどんと視界が戻って来る。


「おぉ、サダバクに血がついてる」

「サダバク、負けた?」

「返り血じゃね?地面にこんなに血が」


(こりゃあ、やっちまったな。両方とも)サダバクはそう考えながら血を拭って、声を上げようとした。

 すると、


「いや、ちょっとぉ、鼻血出ちゃいました」


 ■◆■■■が肩の血の汚れを手で払い、サダバクに視線を向ける。


「あぁ、間違えて一発、多く攻撃をしてしまったんだ」

「ユウヤの勝利です。感想は?」

「まぁ、そん時にちょうど良く攻撃を当たって良かったですよ。完全勝利!!!」


 そう■◆■■■が宣言すると、おぉという声が出てきて、次には凄い、そして皆が騒ぎ出した。

 サダバクは■◆■■■に言った。


「誰だ、お前。あれは何だ。それにあの魔力量はお前の仕業だったのか」

「……やっぱ、聞いてきた通りだ。それに見た通り。あの魔力量は、自前だよ。君にもいたじゃん、前衛がさ」

「………聞いてきた?情報収集が出来るのか。見た通り、というのは魔眼じゃなくて、読心術か」

「かなり当たってるよ。俺はユウヤが起きている最中でも情報収集出来る」

「で、お前が出てきた理由は?」

「都合悪くなりそうだったから」

「ユウヤは確か、死にかけたと聞いたが、それは都合悪くなりそうではなかったってことか?」

「まぁ、生き残ると信じてたけど、死んじゃったらそこまでだよねぇ。そうだ、勝ったんだから金、やっぱ止めた。酒、飲みに行っていい?」

「もちろんいいが、ユウヤが覚えてないだろ」

「それが、今は起きてるんだよね」


 ■◆■■■の乾いた笑い。ただ、その笑顔は、ユウヤの笑顔とどことなく似ていた。(信じてたって言ってたけど………俺っていらない奴なのかな?)

 クインとニィナの呼び声が聞こえてくる。■◆■

■■はサダバクと別れ、会話を始めた。


 疑いなく会話が弾んでいる。笑顔、笑顔、笑顔。

 そもそも、性格が違ったんだ。ズレが生じるのは当然で、でも■◆■■■は皆とすぐ接してる。

 前世は誰とでも話そうとするが軽い感じで、今世は仲間内以外はあまり喋らなかった。

(あぁ、あぁ、消えたい。――ただ、もう一人だ。焼き付いて、離れない。終われない。――思考が楽だ。一緒になったと考えると何故か楽になる。――けど、俺は俺だ。終わりたくないってんなら、俺の道で行く!)


 悪い意味でもなく、良い意味でもなく思考が纏まっていく。誰の考えか分からないのに纏めていく。 

 そうしていくと、ぐちゃぐちゃとした思考がある意味で安定した思考によって一気に晴れる。


(俺の事とか、あいつは知っているんだろうな。もしかして、ユウヤが死に戻りした世界線、とかか?はぁ、つまらない。体を動かしてたいんだ。俺が)


 最後に分かった感覚は、■◆■■■の笑み。体が戻って来た感覚は爽快だった。


「ユウヤ、疲れたのか?」

「あぁ、疲れた!」

「帰りますか」

「うん」


(俺はここで頑張らないと、せっかくある命なんだ。なんか、不安定なの超えると馬鹿馬鹿しくなってきた)

 ユウヤはギュッと拳を握りしめて止まった。


「ユウヤ?」

「俺、」


 止まったことによって、女の子にぶつかってしまった。ただ、拳を握りしめたまま顔を上げると、そこには鼻血を出したユウヤがいた。


「ユウヤ、大丈夫か!」

「ふにゃあ」

「ユウヤさん!?」


(無理そう)

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