第5話 仲間②

「避けて!」

「危ない!」


 ユウヤがクインを既のところで突き飛ばし、庇って右腕を噛まれてしまう。


「あっ、ぁああ’’あ’’あっ!?」


 痛みに鈍感になったと思っていたが、流石にここまでの痛みには耐えられなかった。

 宝箱を叩くが効果は無く、短剣に気が付いて取り出し、ミミックの歯茎の部分に連続で刺す。ゆるまったところを叩き落として蹴り飛ばすと、宝箱はカベに激突する。


「てやぁっ!」


 ニィナが宝箱の開いた部分から剣を突き刺して殺す。


「いっ、ああっあぁ、ぁぁはぁ〜。避けてっつっても避けれん状況だったらどうしようもねぇ!はは複雑骨折みたいに骨飛び出なくて良かったぁ〜」

「何言ってんだ!ま、またった―――――!早く治りょっ、えっ。中身がぐちゃぐちゃになってるし、土が付いて……くっ!」


 汗を拭くタオルは用意してあるが、傷口を覆うことは想定されておらず、汚いタオルでは駄目か?と考えタオルで覆うことは諦める

 ユウヤが圧迫をして止血を試みるが方法が分からず、とりあえず心臓の位置よりも上に置いてみる。

 クインが近づいて傷付いた腕を見てみる。止血法を心得ているのか水を取り出して傷に掛けた後、自分の服を切り取り傷口を塞いで圧迫したり、心臓に近い方を縛ったりする。


「すまない。ユウヤ。俺のせいで!血が止まらない!くそっ、隠すんじゃなかった。奥の―――」

「そんな事は俺達が死ぬ時にしろっ!今、言うことじゃない!ふ、それにお前は悪くないよ。突き飛ばして腕も前に出したから噛まれたんだ。それにミミックをあそこで突き飛ばしてれば医療品も無駄にならなかった。しょうがない」


 そう言ってるがユウヤは実際のところかなり悔やんでいた。そして、こう言わないければ自分はクインを恨んでしまうと思いながら呟いていた。

 ユウヤはさらにブツブツと言葉を繋げるが、クインには聞こえない。

 ミミックを殺し終えたのかニィナが近寄る。


「あのミミック、鍵穴に目がついてやがった」

「不良、品……か………」

「不良品なのか?あいつ」

「俺の腕を噛み砕けなかった時点で、不良品中の不良品だな」


 そう話している内に出血している。


「だ、大丈夫じゃなさそうですね」

「あぁ、まだ子供だし、成長期だし、十分に食えてないかもだし、最悪すぎる」

「あ、そうだ。傷口を焼いてくれ」


 汗を大量にかいた状態で明らかに正気では無いが、清々しい様子だ。


「どうしたユウヤ!」

「昔は傷口を焼いてたって聞いたことあるぅ」

「けど、火傷で死ぬかも」

「やってみてくれよぉ。このままだとまずいんだろ?火の調整とかは出来るだろ?正直、何しないで死ぬより何かしてから死にたい。だから、邪魔しないで」

「ゔっ!分かった」

「……分かりました。『いでよ!«灯火»』」


 人差し指に小さな火が出る。ニィナがちょっとした細工をした後、ジュッ!という音を出しながら出血部分を焼いていく。


「いがっ!あっア’’っァうあ!」


 あまりの痛みにユウヤは暴れないように耐えるが失禁してしまう。


「はっはぁ。ダセェ〜なぁハぁ」

「…………」

「出血は止まったようですし、私が外まで運びましょう」


 体育座りに近い状態にした後、軽くユウヤを立たせて前に移動すると右腕を股の間に挟み込み、持ち上げ右手でユウヤの右手首を掴む。


「汚くてすまない。それに二人戦闘できなく」

「いえ、大丈夫ですよ。私は左手は空いてますし、魔法は放てます」

「友人、ありがとう」


 クインが何に関して言っているのか分からないが感謝をした。急いでいたニィナは素に戻り、「はい」と言った後に進んでいく。


「バッグに入ってる強壮薬を飲んでくれ」

「強壮薬を持ってるんですか?」

「作ってるんだよ。そんなに儲かってないけど、スラムで売りに行ってたなぁ。ちょっと休む必要があるかもしれん」


「強壮薬ってこれか?」


 クインが後ろから強壮薬を取り出した。クインからもらった袋だからすぐに分かったのだろう。


「それを人差し指にでも付けて舐めてくれ。デメリットは今日中にレベルアップしないくらいだ。効果はそれだけで十分だと思うが、今まで助けてもらった恩で強壮薬全部やるよ」

「………ありがとう」


 ぺろっと、ニィナとクインが強壮薬を舐める。


「スッ〜っとした気分になるな。……そういえば、ユウヤはスラムのどこで売ってる?」

「?スラムの○○○○だよ」

「へぇ〜」


 ◇◆◇◆◇◆◇◆


 背後を向いているゴブリンを発見する。


「はぁはぁ、ゴブリン、は……普通の人間みたいに骨が無いところを狙え。弱点を………」


 クインがゴブリンの背後からあばら骨の無いところを狙って剣で一突きにする。そして、槍も使って突き刺し、何度も繰り返す。抵抗しようと振り向くが、剣と槍で中の内臓がぐちゃぐちゃになって、腸が飛び出した。

 

「グギャァ……」


 そう言ってゴブリンは絶命する。


「ハァハァハァ」

「クイン‘‘さん’’、そんなに体力は消耗しない方が良いですよ。最悪、奥の手を使いましょう」

「クインに、さん付けな、のか?それに奥の手」

「………なんでもない!」

「そうですよね。クイン」


 びちゃびちゃと音がしたかと思えば、ユウヤが吐いてしまっていたようだ。顔色が悪くてかなり限界が近いように感じる。

 急ごうと考えているとスライムが五体現れる。

 ギリギリ跨げるような大きさではあるが、五体もいては通りぬけられない。


「喰らえっ」


 剣や槍で突くが効果があまり感じない。精々、ちっちゃいスライムが切ったところに残るだけ。

 スライムは体を伸ばし、振り回したかと思えば遠心力をを使って投げ飛ばしてくる。


「うぉおおおお!」


 剣の腹の部分を使ってはたき落とし、何回も剣と槍を使って攻撃をする。が、何事も無かったかのように再生してくる。


「なっ!ありかよ!こんなの」


 クインが狼狽えていると、スライムが消化液を吹き出してきた。


「あ!くっぅぅ!目が!」

「うぅぅ!」


 ニィナの場合は遠距離の攻撃に想定しておらず、目にかかってしまう。幸いな事に目に負傷をすることにはならず、すぐに視力が戻って来る。

 液が服に染み込み、ヒリヒリと痛みを感じている間に、本命と言わんばかりに消化液を吐き出す。


「避けろ!」


 クインがそう言ったおかげにより、ギリギリのところでニィナが消化液を避ける。


「クイン。助かりました」

「あぁ。ユウヤ!こいつの弱点!」

「ユウヤさん!」

「ぇきぃ、て……………(敵が何か、見えない)」

「え、液ぃっ!?どういうこと、なんだ?水ぶっかけるのか?」


 水を掛けても効果は無い。


「ぶ、物理攻撃は、効かないようだから、そうだ。燃やそう。ニィナ頼む!」

「そ、そうですね。『燃やせ!«火炎»』」


 スライムに火が着くと意外に燃え上り、こんにゃくを燃やした時のような独特な音がなった。

 しかし、火が消えていくが完全に死んでいなかった。


「し、死なない。デカくて燃えきれてない」

「どうすれば」

「も、ㇱヵして、ㇵぁ〜スライム、か?(スライムは確か単細胞生物の集まりで剣や槍の効果は薄かったはず)……ゃっらはけ、がきあなぃ」

「え?!なんて言いました?」


 竜人の耳を以てしても聞こえなかった、いや、滑舌が悪くて聞き取れなかったのだ。しかも、二人がすぐに気付いた事。


「ど、どうすれば」

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜たったき潰せ!」


 モニョモニョと言葉を呟いた後、いきなり大声を出したのでニィナとクインは驚く。

 しかし、 


「おう!」


 クインはすぐに指示に対応してスライムを踏み潰していく。ニィナはというとユウヤが急な大声と共に身体を動かしたのでよろけてしまう。そうして、即座に後ろを振り向き言った。


「ちょっと危ないですよ」

「すまない。汚いし」

「いえ、そういうこと、じゃあ………」


 ニィナが視界に違和感を感じて見上げてみれば、小さなスライムが壁の上、それもクインの真上にいた。


「ナイスです!ユウヤさん!」

「ぇ、ぇ、何ぃ?」

「『支配者よ―力を―猛火を«龍舞焔焔リュウマイエンエン»』」


 ふぅ、とニィナが息を吹くとパチパチと火の粉が現れ、連鎖的にスライムに向かっていく。それはまるでレーザービームだった。一瞬にしてスライムに辿り着くとドロリとクインに落ちてくる。


「うわっ、熱く、ない」

「これが、私の奥の手……の一つです」

「はぁ、はぁ、へぇ〜」


 ユウヤも奥の手のことは気にせず、相槌をうつ。

 おそらく、あの魔法は固有か血統魔法というものだろう。物語では固有スキルもあった。

 その後は何事も無く迷宮を出る。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆


「はあ!」


 意識が戻ると目の前に知らない光景、知らない人物がいた。ユウヤの声で驚いたのか知らない人が喋った。


「どうしたんですか?」

「いや、なんでも」


 周りを見てみればニィナとクインもいて、怪我のところには包帯がある。


「すまない。ユウヤ。火傷の跡が残るらしい。まぁ、明日から戦闘は出来るらしいけどな」

「ふぅん、自分が正しいと狼狽してた時の話だし、そんな気にしなくていいよ〜。火傷の跡かっこいいし〜」


 クインとは違いユウヤは火傷した方の腕を振りながら、軽い感じで受け答える。

 そんな感じで話していると、視界が歪んでくる。

 吐き気などは特に起きていない。


「あれ?意識、が?」

「今日の回復魔法の効果だろう」

「えぇ〜、こんな早く」

「―――何言ってんだ?もう1時間は喋ってるじゃないか」

「え?」


 意識が飛ぶと家にいた。しかも、服は自分の服で倒れているのでは無く、立っている。


「そういえば、病院、異常に綺麗だったな。まぁ、色々違ったりするところあるからなぁ。あれ、手紙が手に」


 封筒を開けてみれば、強壮薬の袋と金貨が五枚も入ってあった。


「え、えぇ〜」

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