第7話 スキル

 魔物が肉を貪り食う音が聞こえてくる。魔物の名前は百面相――顔を変える人型の魔物だ。

 ただ、「助けて」という声がする。


「行った方がいいんじゃないか?百面相は声を真似出来ないはずだ。あいつら鳥みたいな声だし」

「友人の言葉を聞いた方がいいぞ」

「ユウヤさん、血の匂いがします。おそらく、あの人は助かりません。それに迷宮では常識なんてありません。投擲してください」

「分かった」


 布切れに石を乗せて、投擲をする。


「ピィッ!」


 百面相が後ろを振り向くと、目玉が複数あり肌がドロドロと溶けていて異形な化け物の姿だった。

 立ち上がると、二メートルほどの高さがある。


「『燃やせ«火炎»』!」


 ニィナの手から魔力によって作られた灼熱の炎が放たれ、顔に直撃すると頭をおさえながら、悶え苦しむ。


「いくぞ。ユウヤ、罠に気をつけろよ」

「あぁ!」


 クインの片手剣とユウヤの短剣により、百面相は命を落とした。


――――――――――

職業:盗賊 レベル2 スキル:『投擲lv1(全)』new!

アビリティ:   状態:魂の解離 名声28 

カライ・ユウヤ

――――――――――


 ―――三人で組むことにしたが、非常に安定しいてる。


「噂や少年のおかげで名声増えるし順調に成長してるし、投擲のスキルを得られたし、最高」

「なぁ、俺もスキル覚えたんだけど、一ってかいてあるんだよ。かっこの中に、あ、かっこ消せた」

「あ、私もそういうのありました」

「それは、片手剣とかクインは使ってるだろ?両手剣とかもあるから、一ずつ増えていくんだ。最初から(全)って出てるのは余程才能が無いとな」


 雄也は解体をする前に百面相にやられた人を見てみると、内臓を一部食われた状態だった。しかも、蝿の代わりにスライムがたかっている。おそらく、敵対してこない死体専門だろう。

 ニィナやクインが近づいてきた。


「やっぱ、ニィナ凄いわ」

「えへへ……うん?」


 ニィナは人が何か喋っているように聞こえたので、耳を出来るだけ口に近づけた。


「何してるんだ?」

「しっ!」

「たす…て…して………こ、ぅお――し…てぇ」


 その言葉を聞くやいなやニィナは、自分の手を傷つけてその血を飲ませた。


「何、してるんだ?というか、生きてたのか」


 血を飲ませたことに少し戸惑いながらも、クインはニィナにその真意を聞いた。そのことで恥ずかしそうに笑った。


「龍はその血を飲ませると快楽と体を変える痛みを味わいながら、一世一代限りの血になんの効力の無い龍人となります。ですが、私は龍と人間の末裔の竜人ですから、竜人の血は麻◯みたいなものなんです」

「せめて、幸せにってことか………なぁ、ユウヤはそのことは知ってたか?」

「いや、龍のことは知ってたが、それはなぁ。」


 ユウヤは首を横に振りながら答えた。

 そうしている間にも、人は力を失っていってしんでしまった。ただ、幸せそうだった―――。


「というか、俺があの時気絶しなかった理由って、それかも」

「あ、はい。ちょっと血をあげました」

「う〜む、あそこは気絶していたかった」


 痛みを思い出しながら火傷の跡を擦る。


「はぁ……遺品でも持って帰ろう。な、友人、ユウヤ、それがいいだろ」

「私は賛成。だけど、装備と金属プレートだけにしましょ」

「同じく」


 死体から装備を剥ぎ取り、金属プレートをポーチの中に入れた。

 そして、百面相の解体に移った。


「これが魔石ですかね?」


 ニィナが取り出したのは、白色で小指の爪ほどの大きさの魔石だった。


「あぁ、それであってる。そういえば、二人が解体してる間に宝箱見つけた」


 二人の目の前に出したのは、小さくて人の頭ほどのサイズだった。思っていたのと違っていたのか二人とも目を丸くして驚いている。


「大丈夫。これ魔法で細工してあって、色々入ってるからさ。鍵開けるから、直線上に立たないでね」


 鍵開け道具を手に取って、罠解除を試みる。

 これが、職業盗賊を選んだ理由だ。目に見えて器用にはならないが、職業についた時点で補正は掛かるし、『鍵開け』『罠鑑定』『罠解除』などの盗賊特有のスキルを手に入れやすい。


「『鍵開け』『罠解除』『罠鑑定』覚えたら、他の職業になろっかな」

「鍵開け?そんな事言わずに盗賊の戦闘スキルも手に入れたら?」

「盗賊って、極めるまで難しいんだよ、クイン。小説とかじゃないんだし、全部のスキルを得るまで待てない。スキルの引き継ぎって面倒ですからね。戦闘スキルの恩恵受けにくいし」

「正っ解」


 そう言うと同時に鍵穴から光が反射したので、急いで横に避ける。

 ―――ガガッ―――

 迷宮の壁の岩が削れる音がした。


「…………これが麻酔針だ」

「これのどこが麻酔針なんだ?!」

「っかしいな〜。罠無いと思ったのに」


「というか、その箱はどうなってるんでしょうか」

「全部魔法によるものだよ。人間とかには制限あるけど、神と呼ばれるだけの能力はあって当然でしょ。現実的なのあんま無いしね」


 一度目の解除には失敗したが、罠が分かったからか二度目では成功。そして、鍵開けは一度で成功した。


「中身は指輪か………鑑定してもらわないと」


 ユウヤは宝箱を開けたまま地面に置くと立ち上がり、皆に合図をかけて出発する。別に宝箱は雄也達が何もしなくても魔物が中身を入れたり、宝箱の中に落ちていた装具を‘‘迷宮’’が入れる。


 ―――だが、すぐ‘‘発見’’することになる。



 低階層でもっとも注意すべき魔物を―――。



「何か、いますね。キノコが生えた、人間ですかね?匂いが全然しません」

「まさか……ここで………一階層だぞ」

「近くで見てみようぜ」


 ニィナがクインを守るように、クインがニィナの背中から覗き込みながら近づいていく。

 このままでは、クインとニィナが危ない。


「お前ら!あれに近づくな!」


 俺は急いで二人の襟を掴んで、引っ張った。


「いたた、何すんだよぉ」

「何すんだよじゃない!後、少しで死んでたんだぞ!」

「あれは、何なんですか?」


 ‘‘それ’’はどんどんと腐っていき、キノコを作り、地に根を張り出した。とても、気持ち悪いデザインで、開発者も認めている。


「あれは腐虫ふちゅう。冬虫夏草がモデルになっていて、低レベルなら近づいた瞬間、筋肉を操られて、生きたままミイラになるんだ」


 実際には、近づいた状態で五分程度必要だが、厄介なので近づかせないように喋る。


「それじゃあ、帰ります?」

「いや、あれは低階層じゃ厄災判定されてる。

«火炎»でやっつけてくれ。その後に報告をして、清掃をしてもらうんだ」

「分かりました!『燃やせ!«火炎»』」


 ニィナは力を溜めて一気に開放した。

 ニィナから放たれた«火炎»は凄まじい威力で、後ろにいても熱波が伝わってくる。


「あ、レベルが4になってる」

「まぁ、人喰ってるらしいしな」

「それは普通の魔物もだろ。帰るぞ」


 早く腐虫が現れたと伝えるためにも走っていく。


 ◇◆◇◆◇◆


 偶然にも迷宮の近くで試験官を発見する。


「試験官!」

「なんだ?」

「腐虫が発生した!場所は一階層のずっと左の方を通っていた!」

「それは大変だ。君は冒険者ギルドにも伝えておいてくれ」


 そう言って試験官は冒険者に声をかけていった。

 試験官は強いが清掃をするには、ある程度実力のある人が複数はいないと駄目なのだ。


「試験官?あの人、研修の人じゃないの?」

「試験官も研修教える仕事やってるんだよ。実質、セットだな」


 冒険者ギルドに走って向かう。


「受付嬢さん!腐敗虫が発生しました。試験官が処理に向かいましたが、危険です。討伐隊の派遣お願いします!」


 受付嬢はその言葉を聞くと、デスクの赤のボタンを押してから数字を押し込む。緊急時のために簡単に出来るようになってるのだろう。


「何か、他にご要件はございますか?」

「あっ、じゃあ、鑑定と魔石とか諸々―――」

「―――はい、指輪は『運気微増』の祝福呪いですね。魔石などは品質が良いですが低階層の物なので、鑑定料を差し引いて銅貨3枚です」

「ありがとうございます」


 やはり、手際が良い。遺品などは遺族に送ってもらうようにした後は鑑定などをすぐに終わらせた。

 ユウヤは銅貨3枚を受け取り、皆に報酬を分ける。ゲームでも分かっていた事ではあるが、弱い冒険者の生活は厳しい。命の危険があるというのに銅貨1枚だけだ。


「確かさ、金の価値って、鉄銭、小銅貨、銅貨、大銅貨、銀貨、大銀貨、金貨の七つだったよな?」

「あぁ……」

「基本ですよ」

「これ、家賃考えなくとも、四日程度で使い終わるんだけど」

「え?俺だったら一日で使い終わる」

「私は二日がギリギリ」


 悲しい。

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