Ch.4 ダジャレで寝かしつけタイムアタック (最後はドキドキです)

「先輩、こんにちは」


「今回は先輩の部屋に、おじゃまします」


//お菓子の入ったビニール袋を置く音


「これ、差し入れのお菓子です。どうぞお納めください。あわせて先輩がお好きであうろお飲み物もご用意させていただきました」


「かわいく優しい翠夏さんです」


「……」


「ふーっ、いやーそれにしても夏休みも終盤だというのに、あいかわらず蒸しますね」//わざとらしく話題を変える感じ


「……あ、そういえば、なんですけど」


「実況機材、もしかしたら早めに返してもらえるかもしれません」//なんてことない感じを装って


「父が母に言ってくれたらしくて」


「父は私に甘いので」


「……え、あ、そう、です。『私があんまりにもかわいいから』、です」


「…………」


「さ、今日のくじ、引いてください」


//SE くじを引く音


「『添い寝』……ですか」


「……そうですね。さすがの私も、これだけじゃちょっとゲームにも実況にもできないです」


「先輩がどれだけ早く眠れるか、にしましょうか」


「え? 添い寝自体は……別に嫌じゃないですよ」


「これまでも、同じくらいの距離には近づいてますし」


「ただ、身体が縦になってるか横になってるかってだけです」


「たいしたこと、ないですよ」//若干微笑んでる感じで


「さあ、先輩。ご自分のベッドに横になってください」


//SE ベットの軋みや衣擦れ


「それでは私も……」


//SE ベッド軋みや衣擦れ

//耳元ささやき(超至近距離)


「…………」//耳に吐息がかかる


「はい。準備できました」


「…………」//二、三回呼吸音


「なんか、改めて先輩の匂いってこんな感じなんですね」


「嫌じゃないです」


「ただ、私のじゃない匂いだなって」


「他人の匂い、というか」


「当たり前ですね、すみません」


「それで、先輩はどんなことを言われたら早く眠れますか?」


「よく言われるのは羊を数える、とか」


「リラックスできるような光景を描写してあげる、とか」


「あとは意味のないことや、難しいことを延々言ってあげる、とかですかね」


「あ、私、思いつきました。ちょっとやってみますね」


「んっ、ううん」//咳払い

//実況声で


「はーい、みなさんこんにちは〜。翠夏のゲーム実況チャンネル、今日は添い寝で寝かしつけタイムアタックでーす」


「早速やっていくんですけど、作戦!」


「耳元でとってもくだらないことを言えば、すぐに眠ってしまうんじゃないかな、と」


「なので、ですね──」


「『ダジャレを言ったのは誰じゃ』」//以下、ダジャレを言うときは早口ではなくゆっくり目で


「んっふ」//笑いを堪えて


「もう一回、『ダジャレを言ったのは誰じゃ』」


「ふふふふふっ」


「『ダジャレ作戦』! どうでしょう? つまらないからすぐに眠れちゃうんじゃないかな、と」


「じゃあいきまーす……布団がふっとんだ……布団がふっとんだ」


「眼鏡を外したら目がねー!……眼鏡を外したら目がねー!」//『!』がついてるますが、ささやき声の音量で


「コンドルが地面に……」


「ふっ、ちょっと待って……」//笑いを噛み殺しながら


「コンドルがっ……」//息が詰まって喋れなくなる感じで


「いやダメだ、ふふふふっ」//耳に鼻息がかかる感じの笑い


「みなさん、発見です。私、ダジャレに弱いみたいです」


「ぷっ、くくくくくく……」//誘い笑い


「あー、おかしい」


「コンドルが、地面に、めり込んでるところを想像すると、んーっ」


「はぁはぁはぁ……」//笑いを堪えすぎて息も絶え絶えに


//地声に戻って


「先輩……すみません」


「なんか、はぁ、息、めっちゃかかっちゃいましたね。ごめんなさい」


「……先輩?」


「もしかして先輩も、ちょっと笑ってます?」


「あはははっ」//あくまでささやきの音量で


「いや、すみません。これじゃ、全然眠れませんよね」


「んふっ」//吹き出した感じの笑い


「どうします? もう少し続けてみます?」


「わかりました、嫌だったら言ってくださいね」


「アルミ缶の上に、あるみかん……アルミ缶の上に、あるみかん」


「くくくくくくくく………」


「……」//笑わないように息を整える


「廊下に座ろうか、廊下に座ろうか」


「……」//呼吸音


「猫が寝転んだ……猫が寝転んだ」


「…………かわいー」


「蝿ははえー、蝿ははえー」


「わかるわ」


「和食がなくて、わーショック、和食がなくて、わーショック」


「……うーん、ホテルの朝食かな」


「はい?」


「いや、んふっ。すみません」


「鮮やかにダジャレの光景が頭に浮かんでしまって」


「先輩は寝ることに集中してくださいよ」


「ほら、深呼吸してください」


「吸って〜〜〜〜」


「吐いて〜〜〜〜」


「もう一度、吸って〜〜〜〜」


「吐いて〜〜〜〜」


「落ち着きましたか?」


「んふふ……」//慈愛の笑み


「ダジャレ、連発していきますよ」


「このブドウ、一粒どう?……このブドウ、一粒どう?」


「……」//呼吸音


「怨念がおんねん、怨念がおんねん」


「……」//呼吸音


「怨念がぁ〜」//ふざけつつ怖そうな感じ


「ひゅ〜どろどろどろ……」


「お・ん・ね・ん!」//ささやきだが大きな声風に


「……私も先輩の隣におんねん、さっきからずっとな」//なぜか得意げに


「……」//呼吸音


「し・か・を・し・か・る」


「し・か・を・し・か・る」


「……わたしは鹿を叱りませんよ〜、優しくかわいい翠夏さんですからね〜」


「……」//呼吸音


「『うふん』で興奮、『うふん』で興奮」


「うふ〜ん」


「いや〜ん」


「あひ〜ん」


「どぼ〜ん」


「……興奮しました?」


「……」//反応がなくて若干不満そうな呼吸音


「早くトイレに行っといれ、早くトイレに行っといれ」


「……ほんとにちょっとトイレ行きたくなってきました」


「翠夏さん、若干の尿意をこらえながらダジャレを言ってます」


「……」//呼吸音


「今、何時かな……?」//顔だけ動かしながら


「スマホ……」


「いいか」


「時計なんてほっとけー、時計なんてほっとけー」


「つってね」


「先輩? 眠気きてますか?」


「せんぱーい?」


「……」//不満げな吐息


「蒸し蒸しした部屋で、先輩が私を無視」


「蒸し蒸しした部屋で、先輩が私を無視する〜」


「……いや、寝て欲しいんだからこれでいいんでした」


「せんぱーい、せんぱいせんぱいせんぱーい」


「おーい」


「ふーっ……」//耳元に息吹きかけ


「……先輩? ほんとに寝ちゃってますか?」


「……」//顔の正面に回って先輩の表情を確かめる


「んー……」//耳元に戻る


「もしかして、お疲れだったのかな」


「毎日私に付き合わせて申し訳なかったかも……」


「寝顔だと願おう、寝顔だと願おう」


「……先輩、寝顔、無防備ですね」


「……」//呼吸音


「先輩へのラブレターが破れたー、先輩へのラブレターが破れたー」


「……破ったんですけどね、自分で」//さらに小声で


「……」//呼吸音、若干早め


「私からの電話に先輩がでんわ、私からの電話に先輩がでーんわ」


「……いや、いつもすぐ出てくれますけどね」


「……」//呼吸音、若干早め


「先輩とのデートのコーディネートはこーでねーと、デートのコーディネートはこーでねーと」


「……先輩」


「私、先輩としたいこと、たくさんあるんですよ」


「ここのところ毎日、あのくじの箱に手を突っ込んでるから、わかってるかもしれませんけど」


「ね、先輩……」


「親から実況機材を返してもらったら、先輩との遊びもおしまいなんでしょうか……」


「…………」


「自分の気持ちに言い訳していいわけ……」


「自分の……」


「気持ち……」


//身体を起こして聞き手の正面にまわる音


「……」//浅い呼吸


「寝顔だと願おう、寝顔だと願おう」


「寝顔……」


「……」//唇にキスの音


「……」//ボーッとした感じの呼吸音


「……っ!」//我に返る


//SE できるだけ音を立てずに身体を起こし身支度、部屋を出ていく音

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