第7話

玄関でスニーカーを履いて黒猫を抱き上げた。


「じゃあ行ってきます」

「気をつけていくのよ。いってらっしゃい」


はーい、と返事をして家を出た。途端、腕の中の黒猫がもぞもぞとしだした。


「んなーな」

「なに、あっち?」


普通ならあんな神出鬼没そうな少女に黒猫を抱えて歩くだけで会えるとは思えない。


この黒猫があの魔法少女の使い魔とかなら導いてくれるかもしれないけど。


「ににゃなぁ!!」

「えちょっとぉ?!」


急に暴れて飛び降りた黒猫がタッタッタと駆け出した。慌てて追いかけるけど、追い付けずにそのまま人気ひとけのないほうへとどんどん行ってしまう。


「一旦止まって、ストップタンマ!」


ゼェハァと肩で息をする。文化部の体力の無さをなめるんじゃない。人間の言葉が通じるわけもなく、建物の裏に入っていく黒猫。狭いとこに入られたらもう捕まえられない、


「………——あら、今日は昼間なのね、こんにちは」


黒猫をそっと抱き上げた少女。目を見開く。


「——ま、魔法少女?」


暗がりだからか、フードを取って素顔を晒した少女が僕を見る。昨日も網膜に焼き付いた、鮮烈なピンクが暗闇に浮かぶ。


「………ユオ、だったかしら。アナタも、こんにちは」


名前を覚えられていたことに呆気にとられながら挨拶を返す。


「こっ、こんにちは。………そ、その子、リヴィさんの飼ってる猫?」

「飼ってるわけではないのよ。懐かれていて、よく一緒にいるだけかしら」


袖から取り出したステッキを僕に向ける少女。


「リヴィでいいのよ。それと、そこから離れるのをお勧めするわ」

「へ?」


フッと陰が濃くなった気がして上を見上げて固まる。建物の壁に沿うように高く積まれた荷物の上らへんが崩れて落ちてきていた。


「わぁあああああああああ?!?」


慌てて後ろに下がろうとするも間に合わない。少女がステッキをくるりと回すのが見えた。


「リヴィが夢を見ていることに感謝なさい」


強風。それが僕の頭上に落ちそうになっていた荷物を道路側へと叩き出した。背後で凄まじい音がしているなか、無傷の僕は土煙に包まれたリヴィを見る。


「今のも、魔法?」


僕の問いに魔法ステッキを見せるリヴィ。それが答えだと言わんばかりの仕草だった。


「言ったでしょう?リヴィは夢を見ているもの」

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