第12話「恋心」

 一学期の終業式が明日になった。

 今日までは普通に授業もあるが、明日は全校集会とホームルームだけだ。それが終われば夏休みだ。私は楽しみにしていた。どんなことをして遊ぼうか、ああその前に部活を頑張らないといけない。何かと忙しい私だった。


「和葉ちゃん、一緒に食べよ」


 午前中の授業が終わり、お昼の時間だ。いつものように友達が話しかけてきた。


「あ、うん、食べよう食べよう」

「うん。そういえば明日はもう終業式だね、なんか早いね」

「ほんとだね、この前二年生になったと思ったんだけどなぁ」


 友達の言う通り、なんだか時が経つのが早い気がした。二年生になってクラス替えがあって、友達ができるかなとドキドキだったが、よく話す友達も増えた。私はホッとしたのと同時に嬉しかった。


「あはは、和葉ちゃんも私と同じこと思ってたかー。あ、和葉ちゃんのお弁当、必ず玉子焼きが入ってるね」

「うん、私好きなんだー、お母さんが作るちょっと甘い玉子焼き」

「そっかー、甘いのもいいよね。私も好きだよ」


 友達と他愛のない話で盛り上がる。中学生女子なんてそんなもんだよね。


「あ、そうだ、和葉ちゃんに訊きたいことがあったんだった」


 お弁当を食べていると、ふと友達がそんなことを言った。訊きたいこと? なんだろうか?


「ん? 訊きたいこと?」

「うん、和葉ちゃんは、白石くんのことどう思ってるの?」


 突然白石くんの名前が出てきて、私はご飯を喉に詰まらせるところだった。し、白石くんを、どう思ってるか……?


「……え!? あ、な、なんで……?」

「いやいや、最近よく二人が一緒にいるところ見るしさ、この前ショッピングモールでも見かけたし、もしかして、もしかするのかなと思って!」


 そ、そういえば、この前白石くんとショッピングモールでデートした時、友達に見られたのだった……もしかするのかなって何だろう、私はちょっと恥ずかしくなった。


「あ、あれはその、白石くんに誘われて、いいかなって思って一緒に出かけて……あはは」

「そうなんだね! じゃあ白石くんのこと嫌いってことではないよね?」

「あ、ま、まぁ、そうだね……」

「うんうん……ということは、好きだったりするの!?」


 友達が次々に質問をぶつけてくる。す、好きって、私が、白石くんのことを、好き……?


「あ、な、なんて言えばいいんだろう、その、ちょっとドキッとすることもあったり、なんか不思議な感覚になったりしてるけど……」

「そっかー、その感覚は間違いない、恋だよ、恋! 白石くんのことが好きなんだよ!」

「……ええ!? あ、いや、その……」


 な、なんだろう、急に恥ずかしさが増した。こ、これが、恋なのか……友達が言うなら間違いないのかもしれないが、あれ? なんだかよく分からなくなってきた。


「……な、なんか、よく分からなくなってきた……」

「あはは、ふとした時に白石くんのこと考えたり、思い出したりしてない?」

「あ、そ、そういえば、そんなこともある……」

「そっかー、うん、間違いないよ、和葉ちゃんは恋をしているね!」

「……あ、そ、そっか……」


 一瞬、私は白石くんのノートに恋をしていると言いかけた。危ない、それは私だけの秘密だ。

 そ、そうか、私は白石くんのノートだけではなくて、白石くんのことが……。

 その日の午後は、ボーっと白石くんのことを考えてしまって、違う意味で授業に集中できていない私だった。

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