滅びの美学

棺田

ある貴族の話

目の前が真っ赤になった。


その赤いものが大量の血液だと気付くまで数秒も掛からなかった。

妙に落ち着いて冷えきった思考を巡らせ、

ああ、こんなものか。と。

なんだ、思ったより簡単じゃないか。人を殺すなんて。


真っ赤になった自分の姿を見て、洗うのは大変そうだが。と考える。

そして、床に転がっている死体それを一瞥し、手を翳す。

その動作に合わせ、床から染み出てきた黒いモヤに死体は取り込まれ、跡形もなく消えた。



この後はどうしようか。と少し考え込んでいると、ガタン、と後方から音が聞こえた。

振り返るとそこには、先日この家に迎えられた私の義妹がおそるおそる顔を出し、怯えた様子でこちらを見ていた。



そう、そうだ。全部此奴のせいだ。此奴のせいで、私の人生は狂ってしまった。取り返しのつかない程に、もう後戻り出来ない程に。

お前さえ居なければ。お前さえこの家に来なければ。私は普通でいられたのに。こんな感情に支配されることも無く、純粋なままでいられたんだ。


黒い感情に支配された私は、義妹の方へと足を向ける。

ビクッ、と義妹は肩を震わせた。腰が抜けて、逃げることも出来ないのだろう。

私はそのままゆっくりと近付き、義妹の顔を手で覆い、力を込める。




「……おやすみ、ラヴィニア」



赤い飛沫を撒き散らし、華のように咲き乱れた妹だったものを、虚ろな瞳に焼き付けた。





私では、お前を愛せない。

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