短編小説 花子さんと琥珀さん

すららす

花子さんと琥珀さん【花子さん目線】

 花子さんと琥珀さん

 

 

「あ、あの……」

「聞こえてますか?」

「わたし、困っていて……」

「あの……」

 はぁ、今日もダメなのかな……。手当り次第話しかけても全然、わたしに気づいてくれてない。いつになったら見つけられるのだろう

「どうしたの?」

 すると、一人の男の人が私に話しかけてきた

「え? わたしのこと見えるんですか?」

 わたしは、男の人に訊いていた

「え? 見えてるけど」

「ほんと? 本当なの?」

「本当だよ、そうじゃなきゃ話しかけられないでしょ」

 わたしは、ようやく気づいてくれる人を見つけられたことが嬉しくて、涙を流してしまった。男の人は一瞬、泣き出すわたしに戸惑ったが、わたしに言った

「僕の名前は宵 琥珀、君の名前は?」

「わたしの名前は花子。花子だけど、トイレの花子さんではないよ?」

 涙を手で拭いながらわたしはそう言った。すると琥珀さんは少し笑ったあと、ハンカチを出して言った

「花子か、いい名前だね。とりあえず、これで涙拭きなよ」

 琥珀さんの優しさに今度はわたしが戸惑いつつ、そのハンカチを受け取ることにした

「あ、ありがとう」

 わたしは涙を拭い、ハンカチの見た。さっきまで涙で目が潤んでいたせいで気づかなかったが、そのハンカチは意外に可愛らしいものだった

「困っているんだろう? 立ったままじゃあれだから座ってから話そう」

 そう言われ、わたしは近くのベンチに座った

「で、何に困っているんだい?」

 わたしは幽霊、とりあえずそのことを話さなければ何も始まらない。でも、そんなこと話したら、きっと変な子と思われてどっかにいってしまう

「当ててみていい?」

 え、当てる? そんなのできっこない。生きてる人間じゃ困らないことなんだから

「成仏、したいんでしょ?」

「え?」

 当たってる?

「なんで、分かったの?」

「なんでって、そりゃ分かるよ。ほら、なんか透けてるし……」

 あっ、琥珀さんからするとわたし、そんな風に見えてるんだ

「じゃあ、最初から幽霊ってことを分かってて、話しかけてくれてたんですね」

「生きてる生きてない関係なく、可愛い子が困ってたら、話しかけるのは当然でしょ?」

 わたしは頬を赤らめた。優しい……。しかも、可愛いなんて言われるのもう何年ぶりだろう

「んで、成仏できなくて困ってるってことはなんかこの世に心残りがあるんでしょ?」

「うん……。あるよ、心残り」

 琥珀さんの言う通り、わたしにはこの世に心残りがあるから成仏できてない。その心残りは……

「実は、わたしまだ一回も男の人と付き合ったことがないんです。なのに、周りの子はみんな付き合ってて、だから一回でもいいから付き合ってみたかった。で、でも好きな人に告白するどころか、好きな人ができなくて……」

 琥珀さんは真剣に話を聞いてくれている。わたしは話を続けた

「それで、ずっと、ずーっと、男の人を好きになることってなんなんだろうって考えて。ぼーっと歩いていたら。交通事故に遭って死んじゃったの……」

「それで幽霊になったのか……」

 わたしはさらに話を続けた

「死んで幽霊になったあとも、わたしは考え続けました。好きな人といると心臓がドキドキするって聞いたことある。けど、わたしそんなことなったことないし……。そうか、そもそもわたし男の人と話したことが全然ないんだ。そう思って、わたしは男の人と改めて話したいって思ったんです。でも、幽霊になってからは誰もわたしに気づいてくれなくて……」

「そっか……。それで僕が、ようやく見つけた、気づいてくれる人ってことか」

 わたしは小さく頷いた

「なら、君が人を好きになることが分かるまで僕が手伝ってあげるよ」

 その言葉は嬉しかった。でも、正確には人を好きになる知ってるよ。わたしは琥珀さんの手を取り、自分の心臓にその手当てて言った

「ねえ、わたしの心臓、ドキドキしてる?」

 琥珀さんは驚いた顔をして手をすぐ引っ込めた

「わたし、ドキドキしてたよね? これって君のことを好きになってるってことで合ってるよね?」

 わたしはさらに尋ねた

「た、確かに激しい心臓の音を感じた」

「じゃあ、君がわたしの好きな人ってことだよね。ようやく見つけた。わたしの、好きな人」

 わたしは琥珀に抱きついた

「ま、待って、ひとつ疑問があるんだけど、君幽霊なんだよね?」

 わたしは迷わず答えた

「そうだよ?」

「じゃあ、今も感じている心臓の音っておかしくない?」

 わたしはふと、抱きつくのをやめた

「確かに? でも、そんなのは今はどうでもいいや。ようやく好きな人ができたし」

「どうでもよくはないよ」

 琥珀はそう言ったがわたしは無視した。念願の好きな人が目の前にいる。あれ? でも、何か忘れてる気が……。あっ、そうだった

「ねえ、わたしと付き合って」

「あ、え? 急に告白されても、まだ出会ったばかりだし……」

 ダメか……。でも、まだ出会ったばかりだからってだけで、もっと一緒に時間を過ごしたら、きっと……

「あと、僕……」

「んじゃ、家までわたしを連れてってよ。わたし、家無いからさ」

「僕、……」

「ねえ、いい?」

 琥珀は何か言おうとしたが、わたしはそれを遮って言い、琥珀を見つめた。すると、少し時間を置いて琥珀は答えた

「わかった、わかったよ」

「ほんとに?」

 琥珀は小さく頷いた。そして、わたしの手を取り、家まで連れていってくれた

 

 こうして、わたし、花子は好きな人、宵 琥珀の家に住まわせてもらうことになった。ちなみにまだ付き合ってはいない

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