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「ねえ、線香花火で勝負してみない?」
ぶるぶる、ぶるぶる、と持つ指先に火玉の震え動く振動が伝わってくる。
線香花火は他の派手な花火と違って煙の匂いがいっそうきつい気がする。
「いや、こわい」
海の言葉に私は夏の夜風と共に首を横に振った。
「こわい」
拒絶の言葉しか出なかったのは、昔にいさまが線香花火をふざけて私に向かって放った記憶があったから。
「あら、花火が怖いだなんて。まだ爆弾の戦火を引きづっているの」
海の声は遠く未来にいる気がした。
全く違うのにわたしは両手を口元へ寄せて組み、ぶるぶると震えていた。
「花火はいや。線香花火なんて、もっと嫌ですわ」
青く震える縁取りの私の身体全体を、キャンプファイヤーで光る赤い光りで包み込んでいく。
海はとっても冷静だった。冷静にそんな姿の私を一度深く見つめ、右手を差し出した。
「線香花火の震える振動をあなたはご存知かしら」
青い花火のような言葉を告げられ、私は思わず赤い世界へと顔を上げた。
キャンプファイヤーで赤く染まった海のお顔は、頬はとってもふっくらと血色の好い生き生きとした菩薩様のようで。ごくん、と一度わたしは喉を動かしてしまった。
「欲も何もかも捨てます。どうかあなたのおそばに、一生」
永遠、とは願わない。そんな贅沢なこと。
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