第8話 3月攻勢

西暦2026(令和8)年3月1日


 この日、日本国防衛軍の平和維持部隊と、ベルジア王国軍は反攻を開始した。


「全軍、進め。歩兵の大軍如何なるものぞ、ただ進み、蹴散らすのみ」


 地上軍第1戦車師団を率いるまこと・トハチェフスキー中将は命じ、彼に付き従う301両の主力戦車はディーゼルエンジンの咆哮で応える。


 1個当たり96両の主力戦車を定数とする戦車連隊を3個、151両の歩兵戦闘車と1200名余りの歩兵で構成される1個歩兵連隊、その他装軌式車両で構成された砲兵・対空砲兵・偵察などの専門部隊で構成された戦車師団は、今いるベルジア西部の様な舗装されていない平野において強みを発する。先の砲撃と爆撃で損害を受けているとはいえ、敵は未だにタブルズ周辺を制圧下に置いている。よって完全にベルジア国内から排除するためには、圧倒的な打撃力で残敵を粉砕するのが最も有効的であった。


 現在、アシガバード以外の都市に攻め入ろうとしていた軍には、第14歩兵師団と第15歩兵師団が駆け付けている。よって波の様に攻勢を仕掛けてくる事はないだろう。増援が到着する前に蹴散らし、国境線を押し戻すのが目標であった。


 そして師団長の命令一過、300両の戦車は収奪によって現れた小麦畑や、牧草地として整備された草原を駆ける。地上軍最新の主力戦車であるJT-18を先頭に、数的主力であるJT-83M4が続く。JT-18は国土奪還戦争後に日本が独自に開発した第3.5世代主力戦車であり、その姿は人民中国の99式戦車に似ている。主な特徴として国産の125ミリ滑腔砲や各種センサー等を有し、その性能はロシア戦車を凌駕するとまで言われている。対するJT-83は1983年に量産が開始された、旧ソ連のT-72B戦車のライセンス生産型で、現在はセンサーや射撃管制システムを国産に換えたM4型が主力となっている。


 同年代に開発された戦車をも比肩・圧倒する戦車に対し、ローディア帝国軍は無力に過ぎた。主砲より放たれたJTY-11・125ミリ多目的榴弾HEAT-MPが、周囲に熱せられた鉄片の驟雨をまき散らし、数十人単位で帝国軍将兵を殺傷していく。破壊力より貫通力を重視した装弾筒付翼安定徹甲弾APFSDSや、対人目標に使うには高価すぎるAT-11『レフレークス』対戦車ミサイルは必要なかった。


 戦車の後に続くJBMP-84歩兵戦闘車も、無慈悲に敵兵の命を30ミリ機関砲で以て刈り取っていく。そして停車するや否や、後部ハッチより8名程度の歩兵が降車。左右に広がりながら銃口を構え、敵に無数の鉛玉を叩きつける。JAK-89自動小銃はベトナム戦争後に鹵獲したアメリカ製のM16自動小銃を参考に開発されたアサルトライフルであり、5.45ミリ銃弾はノーガードで慌てふためいていた帝国軍兵士達に致命傷を与えていく。


 遥か後方からは、第1砲兵師団と第1戦車師団隷下の砲兵連隊が榴弾砲や多連装ロケット砲による支援射撃を飛ばしており、帝国軍の損害はさらに拡大していた。陸軍の手の届かないところにも、ティへリアやサルバの飛行場より飛び立つ〈ドラコン〉が多数の250キロ爆弾を抱えて向かい、砲兵の全力攻撃に匹敵する破壊を叩き込んでいた。


「ローディア帝国軍は最早敵に非ず」


 トハチェフスキーのこの言葉は、防衛軍地上軍の高慢を象徴する様な言葉であったが、彼らにはそれを発せられるだけの『力』があったのだ。


 この翌日、ベルジア王国陸軍はタブルズ市街地へ突入。凡そ2週間ぶりに一つの街を取り戻したのである。

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