第11話 恋せよ乙女

 アラーム音がなり、重たい瞼にカーテンから漏れる日差しが朝を告げる。誕生日から3日しかたっていないのに、たて続けにいろんなことが起こりすぎて、頭がショートしてしまいそう。


 猫と会話できる私と朔也さん。

 炎の精霊を宿した紅い目の黒猫ルル。

 死を感じる眼力を持った三毛猫テラさん。

 腹ぺこ大魔王の黒白ハチワレのフラン。


「おい、待て待て。そのメンツでダンジョンになんか突っ込んだら、絶対一番に死んじゃうキャラじゃん。僕だけ丸腰じゃねーか」


 不服そうな顔でカリカリを頬張るフランの隣で、ルルは器用に手で顔を洗っている。そっと近づき、私はルルといつもの鼻キスをする。吸い込まれそうな紅い瞳は見惚れるほど、怪しい光を放っていた。


「フランそんなことないわよ。みんな戦えるような特別な力はないんだもん。ただチョットだけ、不思議な力を持ってるってだけじゃない」


 私はそう話しながら、猫耳マグカップにカフェオレを注ぎ、チーズトーストにかぶりつく。


「あ。もぅこんな時間。今日遅刻なんかしたら文ちゃんにお仕置きされちゃうよ〜」


 母さんの作ってくれたお弁当をバックに詰めこみ、いつものポニーテールもバッチリ完成。


「んじゃ学校行ってくるね。フラン、ルルお留守番よろしく」


 ふたりと肉球タッチをすませ、登校準備は完了。後はアパートの前で文ちゃんが来るのを待つだけだ。朝の心地いい風は、秋の気配を感じさせていた。


「おはよう、咲ちゃん」

 

「おはようございます、朔也さん。いい天気ですね……」


 いやいや、いつもの朝じゃない。この距離が縮まっていたことを忘れていた〜。急に鼓動が早くなる。意識するなってほうが無理じゃない。朔也さん距離近いんだけど!


「どうかしたの?」


 のぞき込んでくる朔也さんは、いつもと変わらない素敵な笑顔。でも、妹が欲しかったってセリフを思い出すと心がギュってなる。ん?まさか、これが恋なの?こんな感じだったっけ?小学校の初恋以来、恋とは縁遠かった私はその感覚すら鈍っていた。


 ふいをつくように、突然後ろから肩をつかんできたのは文ちゃんだった。


「おっはよ〜咲。心配かけやがってぇ。もぅ体調は大丈夫なの?」


「うん、もぅ元気だよ〜。文ちゃんのケーキのお陰でパワーアップしちゃったかも。本当にありがとう」


 文ちゃんは私達の不自然な距離感に気づいたのか、朔也さんに軽く会釈して私の方をチラ見する。


「行ってらっしゃい咲さん。ふたりともお気をつけて」


「はい……行ってきます」


 さて、ここから20分ほど歩けば私達の通う月代つきしろ高校はすぐ目の前だ。私達は沈黙のまま50m程歩いただろうか。突然、文ちゃんの足がピタリと止まった。


「あの〜そろそろ話してもらえますか?」


 文ちゃんはメガネをクイッと直して、私に詰めよる。小説好きをあなどるなかれ。全部お見通しだ!という眼差しで私をみる。そして耳元で一言。


「咲ちゃんってどういうこと?管理人さんと何があったのよ〜」


 私はつま先まで真っ赤になってしまったみたいに動揺していた。


「あ。それはね。あの。色々あって」


 話そうとすれば、話そうとするほどうまく伝えられない。話す機会があって仲良くなったって伝えるだけなのに。そんな私を、文ちゃんはにこにこ嬉しそうな顔でみている。


「とうとう咲にも恋の季節がやってきたかな?うまくいくといいね〜」


「これが恋なのかな。自分でもよくわかんないや。話したい、顔がみたい、近づきたいとかそんな感じ?」


「気がついたらずっとその人のことばかり考えてるとかね。では続きは放課後に、期間限定シャインマスカットパフェでもつつきながら話しますか」


「え?あのカフェの予約とれたの?ねぇ本当なの文ちゃん」


 得意げな顔の文ちゃんの横顔。私にはまだまだ恋より団子なのかもしれませぬ。


 放課後、私達はいつもより足早に校門をくぐりぬけ予約していたカフェに急ぐ。目指すは期間限定シャインマスカットパフェ!早速テーブルにつくと、パフェを注文。


 目の前に夢にまでみたシャインマスカットパフェが運ばれてきた。透明のグラスの側面にはピオーネも顔をだしている。そのうえには生クリームとともに大粒のシャインマスカットが12粒。


「咲。改めてお誕生日おめでとう。これからも親友でいてね」


 最高の親友と最高のパフェ。涙でそうなんですけど。


「管理人さんとの恋も応援してるからね~。私も恋したいなぁ」


「ありがとう文ちゃん」


 そんな話をしていると、スマホに朔也さんからのメールが届いた。


―咲ちゃん。こないだ話しそびれたことがあったんだ。俺の神社やこの町のこと。もし時間があれば、明日の放課後でも神社で会えないかな?


 私はすぐに返信を送り、残りのパフェを食べつくした。


 カフェの壁には、来月から始まる期間限定マロンパフェの文字が。私と文ちゃんは不敵な笑みを浮かべ、カフェをあとにするのだった。



────────────────────


今回は第11話を読んでいただきありがとうございます。


毎日更新とはいきませんが、フランとルルの可愛らしさが少しでも伝われば嬉しいです。

あ。パフェの美味しそうな感じもw


これからもよろしくお願いします。



 

 

 

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