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 怪我が治るまでは継母や異母妹に目をつけられてはやっかいだと、一日の大半を部屋で過ごす。ある程度痛みが引いてからは、少しずつ体を動かし、筋トレも欠かさず行った。

 そこまでは順調だったのだが、ダリアが一番困ったのは、実は食事だった。もともと食が細いためか、ダリアに用意される食事の量はとても少なかった。その内容もひどいもので、スープだけだったりくさりかけのパンや、残飯をかき集めたようなものだったり……満足のいかない食事は、ダリアの体力増強計画にかなりのストレスを与えた。


「お嬢様、食事をお持ちしました」


 ダリアの侍女が食事を運んできた。彼女には継母の息がかかっているため、専属だというのにダリアの身の回りの世話もせず、食事を持ってくる以外はほぼ放置状態。ダリアと顔を合わせる度にいやを言い、時には継母たちのように手をあげることもあった。そして今回ダリアにこっぴどくむちちした張本人でもある。


「はい、どうぞ。おがりください」


 雑に皿を置いた反動で、テーブルの上に料理の一部が飛び散った。


「もう少していねいあつかってくれないかしら?」


 侍女の態度は毎度おうへいで、目に余る。ダリアはついに口をはさんだ。しかし侍女は謝罪をするどころか、するどくダリアを睨みつける。


「この私に向かってなんですかその物言いは!」

「そっちこそいい加減その無礼な態度を改めるべきでは? 貴女あなたは私に仕える身なのだから」

「はっ、私がお仕えしている主人はダリアお嬢様ではありませんわ」


 主人は継母であると言いたいのだろう。とはいえ表向きの主人はダリアなのだ。侍女ごときがじゃけんにしていいわけがない。

 だがげんそこねたらしい侍女は、テーブルに置いた食事を片付け始めた。


「私を不快にさせた罰です。食事は抜きにさせていただきます」

「……あぁ?」


 侍女の態度にダリアは思わずメンチを切りそうになったが、すぐにがおを作った。

「貴女に私をばっする権利はないと思うけれど」

「奥様がお許しになるでしょう。まあ、ダリアお嬢様が私に謝罪すれば、今回は特別に許して差し上げますけど」

「いらねぇから、それ持ってさっさと出ていけ」

「なっ……!」


 笑顔はくずさなかったが、つい香織の口調が出てしまった。侍女はおどろいていたものの、ダリアがじろりとすごむと、怯んだ様子で「恐怖でまともじゃなくなったのかしら」とぶつぶつ言いながらそそくさと部屋を出ていった。

 ようやく息を抜いたダリアは、ベッドの上に飛び乗ると侍女の姿を頭に浮かべながら怒りをき出すようにまくらを殴りつける。


「まともじゃないのはてめえなんだよ……はあっ、いつかぜってぇ痛い目見せてやるからな……はあっ」


 勢いは良かったものの、すぐに体力切れになったダリアは息を切らした。思うように体が動かず、再びベッドに横たわる。


「あーっ、もう力なさすぎんだろこの体……」


 前世の自分だったら侍女を含め、ダリアを傷つけた人間をボコボコにできたのにと、くやしさがつのる。そのみじめな思いをかてに、今日も体力づくりに励もうとするダリアだったが……食事を抜かれたことで力が入らない。


「腹減ったあぁぁぁ」


 体力を使うと腹が減る。仕方なく早めにねむろうかと思ったが、腹の虫がまったく鳴きやまず、ついにまんの限界を迎えたダリアは自ら食料を調達することにした。

 こっそり部屋を抜け出し、ちゅうぼうへと向かう。ふと窓の外に視線を向けると、そこは裏庭に面していて、うっそうとした木々が立ち並んでいた。日当たりが悪いのか表にある庭とは大きく違い、どんよりとしたふんただよわせている。


(もしかしてここ、結構穴場なんじゃ……?)


 ダリアは裏庭に出てみようかと考えたが、まずは腹ごしらえだと思い直し再び厨房へと向かう。

 厨房の中に使用人はおらず、明かりもついていなかった。ダリアはくらやみの中、食料を物色するも、勝手がわからずなかなか見つからない。一瞬だけでも明かりが欲

ほしいと立ち上がった時だった。


「そこにいるのは誰だ!?」


 たまたま通りかかった使用人が音を聞きつけたのか、厨房内の明かりをつけて中をのぞきこんできた。


(やっべ!)


 完全にその使用人と目が合ってしまい、ダリアは絶体絶命の大ピンチを迎えた。


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